『ふう・・・』
電話が切れてホッとした僕に彼が声を掛ける。
『なんだよ、なんか悪い知らせ?』
『ううん、違う・・・』
『でも、お化け見た様な顔してるよ』
だって・・・突然執事さんに会おうって言われて
それもお父さんの依頼で、若林君には内緒なんて・・・
誰だって信じられないよ・・・
『ごめん、もう、大丈夫』
力なく微笑んだ僕をまだ怖い顔でにらむ。
『岬がいいなら、いいけど・・・』
さっきまで叩くように降ってた雨が
今ではしとどに窓に落ちる。
『なあ、岬・・・』
ピエール君が僕に向き直る。
僕もゴクリと唾を飲み込んで立ち尽くす。
『ま、いっか・・・』
諦めた様な顔をしてピエール君が立ち上がった。
『俺、行くよ』
『う・・うん』
そのまま僕を通り過ぎて玄関に向かう。
『ま、待って、傘・・・』
くるりと彼が振り返った。
『岬、何かあったら俺に言ってな・・・』
じっと僕を見つめる。
『俺には遠慮しなくていいから』
真剣なまなざしが僕を射抜く。
僕が何も言えない内に彼がドアを抜けて行った。


岬の部屋を出て薄い靄の雨の中
岬の部屋を振り返る。
(この雨、岬の心の中みたいだ)
受話器を上げてまず驚いて、
次から思案げな顔に変わった。
俺にはわからない日本語のやりとり。
一回だけ『若林』って言葉が散った。
あいつの周りで起きてる事、俺には
分からないけど、もし岬が俺に
話してくれる時が来たら、
俺は掛け値無し、岬の味方だから・・・
『それだけ知っててな・・・』
誰もいない窓辺に呟く。


もう一度頭の中で反芻する。
僕の事知りたいって、じゃあ彼のお父さんは
僕達の何を知ってるんだろう。
僕達の事を知らないから?
僕達の事を知っているから?
答えは水曜日。
昨日若林君に電話をもらった時は
幸せな気分で一杯だったのに。

窓を見上げる岬少年の頬に
ガラスを伝う雨跡が
涙の影を付けた。


            
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