プロロロロロロロ…
プロロロロロロロ…

聞き慣れない音が響く。

『◎×△・・・□◇・・・』

誰かが喋ってる。
誰?父さんかな?
肌に触る毛布の感触が気持ちいい。
もう少しだけ…
もう少しだけこのままで居たいナ。

ん?
あれ?
ここ  どこだっけ?

ガバと起き上がると
薄いカーテンを通して、
淡い光が差し込んでる。

『なんだ、岬、起きたのか』

ミネラルウォーターのボトルを持って
若林さんが部屋に入って来た。

ああ、そっか・・・
僕、あのまま寝ちゃったんだ。

『おはよう…ございます』
『おはよう』

僕の隣にどっかり座り込んで
ミネラルウォーターを差し出してくれた。

『お前帰ったと思ってた』
『僕も…帰るつもりだったんですけど』
『・・・の割には起こしても起きなかったぜ』

若林さんがイタズラっぽく笑う。
やっぱり。
帰れば良かった…

『なあ、顔洗って来いよ、朝飯食おうぜ』

そう言って僕の手を引っ張る。
いった…ホントにもう、バカヂカラッ!!!

『若林さん、具合どうですか?』
『もう全然平気だよ』

ああ。
ほんと顔色いいです。
でも…

具合、良くなって良かった。





昨日いっぱい食べたハズなのに。
美味しくてついつい、また沢山食べちゃった。
ホテル一階の落ち着いたラウンジ。
静かなざわめきとウェイターさんが絨毯を踏む
サクサクという音が響く。
昨日から一緒に居たせいかな?
若林さんの前でも、あんまり・・・
緊張しなくなって来た。
いい事なのかな?
悪い事なのかな?


『ご馳走サマでした』

う〜ッ…
こんなに食べちゃって今日、
僕、みんなとのサッカー大丈夫?

『岬、行こうぜ』
『はい』

そのまま黙ってロビーまでついて行った。

『岬の家まで送るよ』

重々しい金縁の自動ドアの向こう、
若林家のリムジンが止まってた。

『お前の家ってど…ハクション!』

急に若林さんが大きなくしゃみをした。
やっぱりまだ風邪、治りきって無いよね。
白いTシャツの上に羽織ったレザージャケット。
そんなに首元空けてたら治るものも治らない…

『僕、ここから一人で帰れますから』

自分の巻いてたマフラーを外して、
背伸びしながら若林さんの首に巻きつける。

『昨日も今日もありがとうございました。
 早く風邪、治してくださいね』
『あ…オイ…みさきッ』

そのままドアを抜けて走り出した。

若林さんが何度も名前を呼んでたのも知ってる…
けどこれ以上一緒に居たら、
全部若林さんのペースにハマって
自分の事を忘れちゃいそう…

わがままで強引で自分勝手だけど
時折見せる子供っぽい笑顔とか
なんか、守ってあげたくなるって言うか

若林さんの隣が、心地いいって
ちょっと…
思っちゃったから。。。









『なんだよ、岬、今日は遅かったな』
『小次郎、おはよ!!!』

近所の仲間と集まる、いつもの河原のグラウンド。
破れて何度も繕ったボロボロのゴールが二つ。
足元は芝生じゃなく土のまんまだし、
シャワー室も何も無し。
雨が降ったら翌週までお預け。
でも、そんな設備も何も無いグランドだけど
今の僕に取っては大事な仲間との交流の場所。

『よし、メンバーも揃ったし、そろそろやるか』

昨日見た夜景も、
豪華な食事も、
フワフワのベットも
今の僕には現実とは思えない。

若林さんの事、前より嫌いじゃ無くなったけど
やっぱり、僕の今は
ココに在る気がする・・・







月曜日。

校門をくぐって校舎に向かう。
ん?今日は一段とみんなが見てる気が・・・

『ミッキー!おはようッ!!』

み?    ミッキー??????
しかも、誰だろう? この人…

『お…おはようございます…』

下駄箱でも廊下でも階段でも、
誰もがみんな僕を見て、
ミッキーって囁いてる。。。

教室の入り口で松山に腕を掴まれた。

『みさき〜…なんか今日、変じゃねえ?』
『松山もそう思う?』
『なんかいつもと雰囲気違うよな』
『うん…』

僕の目の前に、見覚えのある三人が立った。

『お前、ホントに超ムカつく』
『あの記事、マジか?』
『何とか言えよッ!!!』

あ〜もうッ!

『何の事かサッパリ分からないんですけど…』

『掲示板見てないのか?』
『お前と若林さんの事…』
『学校新聞に大きく出てるんだよ』



松山と一緒に学食近くの掲示板に走る。
通り過ぎる学生達が次々に僕を振り返って
ミッキーって単語を口にした。


  ■スクープ!若林さんと岬太郎君ホテルにお泊りデート■
   地元商店街の福引で当たったハイブリッジホテルの
   宿泊券を利用し家族で投宿していた石崎君(2−A)
   が問題のスクープ写真を激写。同じエレベーターから
   降りてきた二人が一階ラウンジで朝食を取っていた。
   石崎君によると、夜も32階のレストランで2人の
   姿を見かけたが個室に入ってしまった為詳細不明。
   翌朝、再度2人の姿を目撃したと証言している。
   <詳細は2面に記載>

『な…』

若林さんの斜め後ろから取られた写真。
僕、凄い楽しそうに笑ってる・・・

『岬…マジなのか?コレ???』

松山が僕の顔をマジマジと覗き込む。

『あ…あの、コレは…』

ううううう〜ッ!!!
確かに若林さんはデートって言ったけど
僕達、付き合ってる訳じゃ無いのにッ。。。
(まだ僕は返事してないもん…)
友達の家に泊まりに行ったのと一緒だよ〜ッ!!!

『松山、違うよ!コレはね・・・』

僕が言いかけた途端、周りから声が上がった。

『ミッキーすげぇ!若林さんと付き合ってんの?』
『最近仲良かったもんな、ミッキー』
『若林さんの部屋って豪華だった?』
『すげえ、仲間が若林さんと付き合うなんてッ!』
『ミッキー、今日部活一緒に走ろうぜ』
『ミッキー詳しい話聞かせてくれよ』

ミッキーミッキーと声が響く廊下を
僕は夢中で走り抜けた。

三階の非常階段に座り込む。

昨日まで僕を無視してた人までが
僕の周りに集まってた。
ホントに、若林さんって人気が有って
お金持ちで影響力あって不器用で優しくて…
どうしてこんなに

僕を悩ませるんだろう。
   
『大空…翼』

頼りなげな表情で座り込んでた
大空翼の姿を思い出す。
あの、優しい雰囲気が

たまらなく懐かしかった。









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