『よ、源三!見たぞ…新聞』
『なんだよ、お前もやる時やるじゃん!』

若林が晴れやかな表情で2人を見上げる。

『なあ、どうだった?デートの感想は?』
『どんなコースにしたんだ?』
『お前らが言ってたコースだよ。夜景見て…』

若林の顔が一気に赤くなる。

『で、飯食って…』

一瞬にして不機嫌そうな顔。

『一緒に寝た』

ちょっと照れくさそうな顔。


三杉と若島津がヒソヒソと話合う。
『いい事と悪い事が色々起こったな・・・』


『で…でも一緒に寝たからには…決めたんだろ?』
『そうそう、ちゃんと安心させてやったか???』

『何もしてねえよ』
『え?』  ×2

『安心は… 俺が安心した』
『???』 ×2

『でも、ちょっと格好悪かったな…
 あんな所見せちまったし』
『どんな所ダヨ?』 ×2


思い出し笑いでニヤニヤしてる若林に背を向け
2人でヒソヒソ話を始める。

『夜景見たときはいい事が有って
 その後、何かアクシデントが有って
 何かの理由で源三が格好悪い所見せて
 ・・岬君が優しく接したんだろうな』
『何も無かったとは言え、一緒に寝たって…』

若林の方に向いて、三杉が問いかける。

『でも、キスくらい…しただろ?』

途端に若林の顔が赤く染まって
ピキーンと動きが止まる。

『したな…』
『間違い無い』
『まあ、源三初デートにしちゃあ上出来…か?』
『・・・だな!』

真っ赤になって動けない若林を
二人で横に挟んで優しく叩く。

『おめでとう、源三』
『お前にしちゃ頑張ったよ、うん』
『うるせえぞ…』

我に返って椅子にどっかり座り込む若林。

『お前ら、本当に付き合うのか?
 新聞にはそう書いてあったぜ』
『わからねえ』
『わからない。。。ってお前・・・』
『チューまでした仲なのに?』

若林が手近にあった雑誌を投げつける。

『まだ岬の気持ち…ちゃんと聞いてねえから』

『(ああ…そう言う事か…)』
2人が顔を見合わせる。

『でも俺、本気で岬にホレた』

いつに無く、若林が真顔で呟く。

『・・・まあ、なんにしても・・・』
『頑張れよ!源三vvv』


*********


頭痛がする。
一日中ミッキーミッキーと追い回されて
ホントにうんざり。色んな事を聞かれるけど
僕と若林さんは別に付き合ってる訳でも無いし。
これ以上騒がれたく無いから
なるべく若林さんと顔を合わせない様にして
お昼も警戒していつもの屋上から裏庭に変更。
ホント僕・・・何やってんだろ・・・

『ミッキー、部活行こう』

つか、誰???
昨日まで話した事も無い生徒も
キラキラした目で僕を見つめてる。

『ミッキー今度一緒に遊ぼうぜ』
『そうだよ、俺達友達だろ!』

クラスメートと普通に話が出来る様になって
正直、嬉しく無い訳じゃない・・・でも
こんななら、まだ無視されてた方がマシだった。

『松山、僕、頭痛がするから…帰る』
『え?オイ…岬大丈夫か?』
『うん。。なんかちょっと無理っぽい』

こんな偽りの優しさや友情の中で
平気で居られる程、僕は大人じゃなくて・・・

『また、明日ね』



その日の夜。
早めに布団に入ってた僕は
大きな音で目が覚めた。

ドンドン
ドンドン

なんだろう・・・
大家さんかな?
でもちゃんと家賃も払ってるし

『岬ッ』

ん?
若林さんの声???

慌てて飛び起きて玄関に向かう。

『岬、いねえのかよ』
ドンドンとまたドアを叩く。
待って…
そんなに叩いたらきっと
このドア壊れちゃうから・・・

『い…今開けますッ』

慌ててドアを開けた。

一陣の冷たい風に混じって
若林さんの大きな姿があった。

『どう…したんですか???』
『お前、何も言わずに帰っただろ?』
『え?』
『具合悪くて帰るなら、俺に一言声かけろ!
 車で送ってってやったのに』
『え…ああ、でも大した事無いですから…』
『うるせえ!』

そのままギュッと・・・
僕は若林さんの腕の中に居た。
大きくて、暖かい、若林さんの海。

『部活にも来ねえし、心配したんだぞ』

ああ…また…
僕の胸が大きく波立つ。

『ほ…ホントにもう…だいじょう…ぶ…』
『なあ、岬…』
『なんですか?』


『なんでお前、玄関に寝てんの?』



それから。
まず、若林さんの靴を脱がせるのに苦戦した。
こんな狭い空間に人が住んでるなんて
信じられねえ…とか何とか言って
なかなか納得してくれなくて・・・
『俺んちのトイレより狭いぞ』だって。
はいはい。
でもね、それが庶民の生活ってモンなんですよ…
やっと落ち着いて布団の横に座ってもらう。

『コレ』
差し出された、金ぴかの小さな機械。
『?何ですか?コレ…』
『携帯。何か有ったら連絡しろよ』

えええ〜ッ
僕、家の電話も持ってないのに?

『俺の番号、登録してっから、
 電話が鳴ったらスグに取れ』
『でも・・・』
『うるせえ!あと…
 発信していいのは俺と・・・
 お前のオヤジの所だけだからな』

父さん?

『父さんは今フランスに居て…』
『国際電話かけりゃあいいだろ?』
『でも…僕、そんなお金…』
『いちいちうるせえなッ!』

あまりの大声に耳がキーーーーンとした。

『たまには声くらい、聞かせてやれ』

スゴク照れ臭そうな顔して横を向いた。
なんか…笑っちゃう。

『オヤジさんだってきっと…喜ぶぜ』

ホント。
不器用なんだけど、
こんな時、若林さんの優しさが嬉しくなる。

『でも僕…』
『お前、俺からの着信取らなかったら殺す』

ガクリ…
携帯、受け取れない、なんて言ったら
本当に殺されそう。

『わかりました、預かります』
『お…おう』

きっと僕は父さんには電話しない。
若林さんにそんな風に甘えたくないもん。

『なあ、フロってどこにあんの?』
『え?』
『フロだよ、フロ』
『ああ〜…っと…無いです』
『・・・ふ…フロが無い?じゃあ
 ま…まさか台所でッ???』
『違いますよ、今日はもう行かないけど
 いつも銭湯に行ってます』
『銭湯???』
『みんなで入るお風呂ですよ?
 今度一緒に行きますか???』

あれ?僕、ちょっとイジワルな質問だった?
若林さんが銭湯なんて行く訳無いっつ〜の!!!

『おう』
『・・・』
『今度、連れて行け』

ま…マジで???


僕。
何度美味しいご飯をご馳走になっても
若林さんの世界に馴染めなかった。
凄いキレイな夜景も、ホテルの部屋も
どこか現実と思えなかった。
なのに、若林さんはいとも簡単に
僕の世界に飛び込んで来る。。

『つか、お前具合悪いんだろ?』
『本当にもう、大丈夫ですよ』
『いいから横になれ』

さっきまでヒドかった頭痛。
若林さんと話してたら
今はウソみたいに引いてる。

乱暴に寝かしつけられて横になった。

下から見上げた若林さんの顔に
心配そうな表情が覗く。

『あ!』

パッと若林さんの顔が輝いて
なんか台所に向かう。。。
何?大丈夫かな?
蛇口の下で暫く何かやってから
若林さんが楽しそうに戻って来た。

『こないだ、気持ちよかったから』

青い、高級そうなハンカチなのに。
水に濡れてシワクチャになってる。

『な?気持ちイイだろ?』

僕の額にのっけて、
得意そうな顔をする。

プ。。。
僕、別に熱なんて無いのに・・・
でも、なんか嬉しかった。

『気持ち、いいです・・・』
『だろ?』

この無邪気さを、
なんか守ってあげたくなる。

父さんみたい。
絵の事に夢中になって
なりふりとか全く構わない父さん。
でも、そんな所が僕は大好きで、小さい頃
母さんともめた時、父さんと一緒に居たいって思った。
僕の入り込む余地をちゃんと作って、
僕の事を信頼してくれてた…あの感覚と同じ。

『こないだ、俺が具合悪かった時、
 お前が隣に居てなんかすげえ安心した。
 だから今度は俺が安心させてやるから
 もう、寝ろ』

ほんとにもう、単純で不器用で・・・
でも、ホントに優しい。

『若林さん』
『なんだ?』

『ありがとう』


みんなにミッキーミッキーって
追い回された今日一日。
でも、そんな事、僕と若林さんには関係無くて
僕等はこうして、何故か仲良くやってるし
みんなが知ってる若林源三って人は
スーパーお金持ちでサッカーが巧くて
学校でも権力が有って凄い人だけど
今、目の前に居るのはただ優しく
優しく僕に接してくれる若林さんなんだ。

『ば〜か…早く寝ろ』

若林さんが立ち上がって電気のヒモを引っ張る。
馴染み深い、オレンジの小さな明かり。

『僕の家、ドアノブの鍵を回して外から閉めれば
 鍵、かかりますからもし本当に寝ちゃったら
 鍵閉めて行って下さいね』
『おう』

明日、またミッキーって追い回されるのかな?
なんか疲れそうだけど、もう平気。
今日は僕と若林さんの関係が良く解らなくて
返答に困ってたから逃げてたんだって思う。
僕達、付き合ってるわけじゃないけど、
若林さんの『僕を好き』って気持ちが
どこまで本気なのかも解らないけど
こうやって一緒に居ることもイヤじゃないし
逆に僕にしか見せない若林さんの姿を大事にしたら、
若林さんも他の人に対して僕と同じ様に
優しく接する事も出来る様になるかも知れ無いし。

この間まで大空翼の笑顔を守るのに必死だった。
今でも、大空翼の事がすごく大事に感じる。
でも、若林さんとはちょっと違う。
僕、大空翼の隣で一緒に走って、
一緒に前に進もう進もうとしてた。
若林さんとは横に居て、並んで歩きたい。
若林さんと居ると、なんか包まれてる感じで
色んな意味でドキドキするけど
僕が何か色々してあげたいって思っちゃう。

僕の居場所の 隙間 が
若林さんの中にある気がするよ。

だから明日からみんなに僕たちの事を聞かれたら
ちゃんと 友達 って返答しよう。


『岬、手… 手、出してみ』
『手?』

僕が布団から出した手を、
若林さんの大きな手が包む。
優しく、優しく揺すられてる手が
心地よいリズムを刻んで

心臓の音みたい。
ゆっくりゆっくり流れて行って

僕は安心して目を閉じた。


『岬?』

若林の問いかけに応えないのを確かめて
そっと手を離す。
額にかかる前髪を優しく撫で上げてから
岬の手を布団の中にそっと戻して、
若林がその寝顔を覗き込む。

淡いオレンジの明かりの下で、
優しい時間が二人の横を通り過ぎて
若林の口元に笑顔が浮かんだ。










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