『岬、具合良くなったか?』

松山の問に笑顔で答える。
朝起きて家を出ようとしたら、お願いしたハズなのに
玄関の鍵が開いててビックリ。
ドアを開けたらスーツの男の人が立っててまたビックリ。
『若林様のお言いつけで見張ってました』
…って、近所の人がビックリするっつーの!!!
『(まったくもう…)』
送ります、と言うSPさんを断って
元気に学校に向かって歩き出す。

気がつくと、携帯に若林さんからのメールがあった。

『起きろ』

たったの3文字。
だけど、なんかスゴク暖かい感じがした。

今日は気分がいい。
自分の気持ちに名前がついた瞬間。

みんなにミッキーって呼ばれるのも
違和感あるけど、もう頭痛なんてしない。




非常階段で空を見上げる。

『大空翼…』

僕の心に、大空翼の笑顔が浮かんだ。




その週の平日。
僕は学校に行って勉強してサッカーして
バイトしてお昼も何回か若林さんと食べた。


そして
コレでいいんだと

思ってた。



*****



『なあ岬、その後若林さんとはどうなった?』

小次郎の突然の問にドキリと胸が鳴る。

『どうって…別に仲良くしてるよ』
『ふ〜ん…』

小次郎が僕の顔を覗きこむ。

『なあ、今週末の練習、若林さんも誘えよ』
『えっ?』
『俺、本場の指導とか受けてみたいし』
『・・・』
『米とかの御礼もちゃんと言いたいし』
『ああ・・・』
『な!俺達の為にも若林さん呼んでくれよ』
『聞いてみるけど・・・』


あのプライドの高い若林さんが?
僕達と一緒に河原で練習?
絶対に来るとは思えない。

『ちゃんと頼んでくれよな!』
『うん。。。』



次の日。
僕は意を決して食堂に行った。

C4の溜まり場への階段を登ると、
若林さんが嬉しそうに僕に笑いかけた。

『岬!』

『岬クン!!!丁度、週末の計画立ててたんだ』
『俺達、ボード行こうって言ってるけど
 岬クンも来るかい?』

若島津さんと三杉さんの前で
僕達の庶民サッカーに誘ったら
若林さん。。。怒り出しちゃうかな?

『あ…あの僕…』

でも、小次郎との約束の手前、
ちゃんと言わなきゃ…

『若林さん、ちょっといいですか?』

一瞬、若林さんがキョトンとした。

『源三、岬クンからのお誘いだぞvv』
『お前、何固まってるんだよ!』
『うるせえッ!!!』

真っ赤な顔して、若林さんが椅子にどっかり座り直す。

『どうした?』
『ちょっとお願いがあって…』

僕が言いかけた途端、若島津さんが席を立った。

『やべえ、淳!時間だよ』
『え? あああ…そうそう、忘れてた』
『オイ、お前らドコ行くんだよ』

僕の横を過ぎる時、三杉さんが僕の肩を叩く。

『ごゆっくり』



『座れよ』

なんか、緊張して来ちゃった。。。
若林さんと向かい合って話はじめる。

『な…なんだよ?岬からお願いっ…て珍しいな』
心なしか、若林さんの顔が赤い気がする。
『そうですか?』
きっと僕の顔も赤いはず?

コホン、と心の中で咳払いを一つ。

『僕、週末にいつも他の学校の友達と
 河原でサッカーしてるんですけど…』

チラ、と若林さんを盗み見る。
うん。大丈夫、普通の顔してる。

『良かったら明日若林さんも一緒にどうかな〜…と思って』
脳裏にボロボロのグラウンドが浮かぶ…
うううん、ウソは言ってないし!!!

若林さんがちょっと考え込んで  言った。
『別にいいけど…なんてチームなんだ?』

うっ!
きたッ!!!

タダの庶民サッカーで〜す★
なんて…言っていいのかな???

『チームとかじゃなくてその…友達同士の集まりなんですけど』
『あ?』
『でも別に…みんな他の学校でサッカーやってて
 ホントにサッカーが好きで巧くなりたい子達なんです。
 僕が若林さんと仲がいいんだよ…って言ったら
 みんなが是非若林さんと一緒にサッカーやりたいって…
 本場で鍛えたサッカーがどんな感じか教えてもらえたらって』

『・・・』

あれ?さっきイイよって言ってたのに黙っちゃった?

『ホントに、河原でやるサッカーだから設備も無いし
 若林さんのいつも居る環境と全く違うし…
 ホントもし良かったら…でいいんですけど…』

『なんだよ、遊びか?』

カッチン と来た。

『遊びじゃないです、みんな真剣です』

それは若林さんはプロに混じって
練習してるかも知れないけど
僕達だって真剣に練習してるのに!
そんな風に言うなんて・・・

若林さんの顔が不機嫌そうに歪む。

『チームでも無いサッカーってどんなだ?』
『サッカーが好きな者同士が集まって練習するんです!』

うっ!いつに無く言葉尻がきつくなる。。。
若林さんがジッと僕を見つめた。

『俺に庶民サッカーに参加しろって言ってるのか?』

しょ…      確かに庶民サッカーだけどッ!


『もう、いいです。すみませんでした』

急いで席を立った。
こないだまで優しくしてくれたから?
ちょっと勘違いして甘えてたみたい。
どんなに優しくなったって、基本は
陽壱学園の帝王、若林サマなんだもん!

自分がバカみたいに思えてきた。

『若林さんにとっては遊びに見えるかも知れませんけど
 僕達、一生懸命なんです。だからもういいです』
『?おい 岬???』



階段を駆け降りて、
食堂を走り抜ける。

若林さんにじゃない、
若林さんの優しさに甘えてた
僕自身に腹が立つ!





『おいおい、源三…遊びかって…そりゃねえんじゃね?』
『そうだよ。だいたいお前が、高校生として特殊なんだからさ〜』
『お前ら…聞いてたな』

どこからともなく現れた両者に若林がブスったれる。

『折角の岬クンからのお誘いだったのに…』
『そうそう、素直に行くって言えばいいものを』
『だってチームでも無いサッカーの集まりってどんなだよ?』
『友達同士って言ってたじゃん』
『あ〜あ…岬クンの友達の前でカッコイイ所見せる…』
『折角のチャンスだったのに…』
『なあ!』 ×2
『岬クン、みんなの前でお前と仲が良いって言ってるんだぞ?』
『なのに源三がコレじゃあ…岬クン可愛そうに』

若林が真っ赤になって反論する。

『俺様が庶民サッカーなんかに行かれるかッ!
 お前らが行ってやりゃあいいだろ!!!』

『はぁ〜…』×2

『岬クンの中で源三の株を上げるチャンスだって事だよ』
『だってお前、デート以来、全然進展してないんだろ?』
『みんなの前で源三がカッコイイ所みせたらさ…』
『岬クンもきっとお前の事好きになってくれるって!!!』

若林がウン?と考え込む。
次の瞬間、その頬が赤く染まった。


『で?源三の明日の予定は?』
『俺達とボード行くか?』
『河原にサッカーしに行くよなぁ』

『うるせぇ!ほっとけッ』

若林が、肩を揺らして食堂を出て行く姿を見て
若島津と三杉がヤレヤレと肩を竦めた。


『全く…世話が焼けるよ』

三杉がフウ、と溜息を付く。

『ほんと…でも源三、やっぱり変わったよな』
『ああ…最近は青紙とか貼らなくなったし』
『部活も来るようになったし』
『なんか素直だし』
『優しくなったし』

二人でニヤリと顔を見合わせる。

『やっぱり、岬クンのお陰だよな』

若島津がグラスを口元に運んだ。

『前は源三って感情あんまり出さないから
 何考えてるか良くわからなかったけど
 最近素直でなんか可愛くね?』
『うん、僕もそう思う』
『岬クンってさ、源三との事どう思ってるのかな?』

二人で揃ってハァ〜…と溜息をつく。

『岬クン、純情だから』
『押せ押せ…じゅあ無理だろうし…』
『源三がもうちょっと頑張ってくれたら
 岬クンだって悪く思って無いと思うけど』

三杉がギュッと眉を寄せた。

『ココに翼が居たら、ど〜なってる事やら…』

  間違いなく、翼と一緒に居るだろうな

二人の心に浮かんだ言葉を打ち消した。











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