土曜日は雨降りで練習はオヤスミ。
日曜日、カラッと晴れた太陽を睨む。


『今日、若林さん、来てくれるかなぁ』
『ああ…小次郎、その話だけど…』

あの日以来、若林さんとは顔も合わせて無い。

『ごめん、若林さん来ないから…』
『え?岬、マジかよ???』

そう。
絶対に来ない。
だって、若林さんプライド高いし。
やっぱりこんな庶民サッカーに誘うなんて
僕もどうかしてたんだよね…

『ま、こんな草サッカー、若林さんには無理だな!』

小次郎が大きく伸びをする。

『岬、走ろうぜ』
『うん』

僕等が走り出したのをきっかけに、
いつもの練習が始まって、自然に試合形式になった。
『岬、行くぞ』
小次郎の声と共に走り出した時、
その声が大きく響く。

『なんだよ岬…チンタラ走ってんじゅねえぞ』

わ・・・・・・

『若林さん!!!』

土手の上に、その堂々とした姿があった。
トレードマークの帽子の下に
ちょっと照れ臭そうな顔が見えた。
ズカズカ僕の傍に歩いてくる。

『え…どうして…』
『て…てめぇが誘ったんじゃねえか!』
真っ赤な顔して僕を見下ろした。

『若林さん』
『な、なんだよ…』
『ありがとう!』

なんか思わず若林さんに抱きついた。
『ちょッ…オイ…岬…』
『凄く嬉しいです、来てくれてありがとう』
若林さんの手が、僕の肩を掴んで上から見下ろした。

『しょ・・庶民サッカーってヤツが
 どんなかな、と思ったダケだ!』

若林さんがぎこちなく後ずさる。

『なぁ〜んて言ってさ、源三、
 昨日雨降ったからめっちゃ暴れたんだぜ』

後ろから若島津さんの声がした。
『え?』
若林さんの後ろを覗き込む。
真っ赤なジャージに身を包んで、
頬にかかる長い髪を若島津さんが後ろに払う。

『そうそう、僕達、信州から呼び戻されたんだよ』
笑いながら三杉さんまでがジャージ姿で立ってる。

『??どうして…』

『俺達も庶民サッカーってヤツを見学に!』
『つうより、源三を見学に…』
二人が僕と若林さんをニヤニヤと見つめた。

『ガタガタ言ってねえで、やるぞ、サッカー!』
照れ臭そうに若林さんが叫ぶ。

その時気がついた。
僕等の周りで、みんなポカンとしてる。

『陽壱学園のC3だぞ・・・すげぇ!』
『俺、こんな近くで見たの初めてだよ』

『あ…みんな、紹介するね』

一通り挨拶が済んで、段階別にチーム分けをした。

『先日は色々とありがとうございました』
小次郎が若林さんに挨拶する。
『あ?』
僕が慌てて2人の間に割って入る。
『ほ…ホラ、先日食材分けたって話した友達です』
『俺んち兄弟多いから本当に助かりました、ご馳走サマです』
『べ、別に・・』

プ。
陽壱学園の生徒だって、こんな風に話した事ないよね。
それを照れ臭そうに受け答えしてる若林さんが
なんか凄く可愛く見えた。

『てめぇ、何笑ってんだよ』
『いえ、別に…』

『あ、君、岬クンのバイト仲間だよね』
『若島津さん、こんにちは』
『確か日向くん!』
『名前、覚えててくれてたんですか?』
『もちろん!また会えて嬉しいよ』

三杉が若島津の脇を小突く。

『健…また悪い癖か?』
『だって日向くんて可愛くね?』
『まったく・・・』


僕等のチームは年齢の幅が広い。
殆どが金銭的な問題でチームに入れない子達。
キーパー志望の子達は集められて若島津さんに、
まだまだ技量が浅い、と判断された子達は
三杉さんが受け持って熱心に講義を受けた。


僕と小次郎は若林さんの元に集まる。

『じゃあ、行くぜ』

部活の時と同じくらいのメニューに
みんな悲鳴を上げてたけど、誰一人
文句も言わずに必死について行く。
そんな皆を見て、僕の胸が誇らしく高鳴る。


休憩の時、若林さんが僕の隣に座った。

『お前、大丈夫か?』
『僕は…部活で鍛えてるから大丈夫です』

本当はヘトヘトだったけど、笑顔を向ける。

『あ…あのな、岬』
『なんですか?』

若林さんが帽子を目深に引き降ろした。

『わ…悪かったな、お前の友達の事、
 バカにする様な事言って』

『え?』

『みんな真剣だよな…部活のヤツラとはなんか…
 その、気迫が違うって言うか…』

もの凄く照れながら言い訳する若林さん。
天下の若林源三。
初めて会った時は『嫌なヤツ』って思ったけど
今は、凄く大事に思えた。

『本当に、来てくれてありがとうございます。
 みんな、ちゃんとしたチームに入れないから
 こんな指導して下さって感謝してると思います…
 本当に、ありが…』

言いかけた僕に、若林さんが勢い良く振り向く。

『他人がどう思うか、とかはどうでもいい』

『?』

『俺は、お前が喜んでるならソレでいいんだよ』

顔に一気に血が昇る。
いつも思う。
不意打ちは反則。

『陽も傾いて来たし、やるぞ!』

慌てて立ち上がる若林さんの大きな背中を見つめる。
昨日の雨で乾き切らない地面が、その靴を汚してる。
泥だらけになって、ワザワザ僕の為に来てくれたんだもん。
本当に・・・・・ありがとう。

大きな背中に向かって、心の中で呟いた。


最後はみんなで試合形式を取った。
年齢の小さい子も、僕たちもみんな混じって
ワイワイボールを奪い合う。
気がつけば、三杉さんも若島津さんも
凄く楽しそうに笑ってる。

そう。
サッカーを通じてみんなの心が通い合うのって
本当にいいよね。





   ******



『旦那様、お坊ちゃまでは?』

運転手が珍しく話しかけて車を止めた。
NYから久々の帰国だから、早く家に戻りたいのに。

旦那様、と呼びかけられた紳士が
車の窓を開ける。


『源三…』


目の前に繰り広がる光景を見つめながら
白い手袋をしている手が、震えた。












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