カコーーーーーーン…
もうもうと湯気の立つ中、僕は湯船に浸かってた。
隣で、小次郎も気持ち良さそうに身体を伸ばす。

『すっげーキツかった!』
『うん、でも、部活じゃアレが普通かな』
『やっぱり凄いよな、あの3人』
『うん…ホントに』


暗くなるまで僕等は走って、
泥だらけの地べたに座り込んだ。

『岬、なんか家から連絡あったから俺、帰るわ』

若林さんが僕の手を引いて立ち上がらせてくれる。
『乗れよ、送ってやるから』
『え?』

冗談じゃないッ!!!
こんなドロドロのままで、車になんて乗れないッつ〜の!
『大丈夫です、コレから小次郎と銭湯行くし』
『そっか…』
ちょっと残念そうな若林さんに声をかける。
『若林さん、本当に今日は…ありがとう』
僕の頭をグリグリと撫でた。
『感謝してるなら…明日昼飯、弁当作って来い』
『え?』

驚く僕をそのままに、若林さんは
そのままスタスタと歩き出した。

『じゃ、岬クン、またね〜』
若島津さんも僕に手を振る。
『日向くんも、また!』
『じゃ、岬クン、今日は楽しかったよ』
三杉さんもクルリと僕等に背を向けた。

颯爽と歩き去る3人にみんなの感嘆の溜息が漏れる。
『凄いよな…』
『俺、今日でちょっと巧くなった気がする』
『だよな!俺も!!!』


土手を登りながら若林が口を開く。

『淳、銭湯ってどんな所だ?』
『は?何?源三、銭湯に行きたいのか?』
『岬が、これから銭湯に行くって…あいつんち、
 風呂が無いからいつも行ってるらしいけど…
 こないだ俺も今度一緒に行こうって誘われた』
『岬クン・・・結構大胆だな・・・』
『サウナの延長みたいなモンだろ?』
『源三、銭湯はな、個室なんて無いぞ』
『温泉みたいに高級な感じじゃ無いし』
『ま、一度一緒に行くといいよ!』
三杉が源三の肩を叩く。
『そんなオープンな雰囲気の方が興奮しないだろうし…』
『だよな〜風呂に入る前に源三、鼻血で倒れるかも!!!』
『なんか良くわかんねえケド、また俺をからかってるな?』

『だってさ、源三、銭湯ってオフロだよ?』
『裸だよ〜』

ん?と若林が考え込む。

一瞬にして顔が真っ赤に染まった。

『やっとちゃんと理解したらしいな…』
『ま、今度一緒に行ったら教えてくれよ』
『じゅな、源三、また明日』

三杉と若島津が車に乗り込んで走り去る。
若林も運転手が開けたドアに滑り込んだ。

『これから  小次郎と  銭湯行くから』

岬の言った言葉がグルグル頭を回る。
ちくしょ!アイツ、岬の裸見るのか…
なんか、ムカッと来て運転手に声をかけた。

『オイ、ちょっと寄り道するぞ!!!』

運転手がビクビクしながら振り返る。

『も…申し訳御座いません、坊ちゃま・・
 至急家に戻られるようにと…旦那様から…』

震える声でそう告げる。

『親父が???』




いぶかしげに眉をひそめた若林を乗せて
車が飛ぶように走り去る。








『でもさ、若林さんっていい人じゃんか』
『え…』
『なんだかんだって言っても、結局今日来てくれたし
 俺達にも真剣にサッカー教えてくれたし』
『うん…』
『岬にだけは、優しいな!』

小次郎の言葉に頬が赤くなるのがわかる。

『でもさ、強烈だよな…あんな人滅多に居ねえよ』
『そ…そう…なんだよね…』

それで困る事もしばしばだけど…
と、心の中で呟いた。

『俺は応援するよ』
『何を?』

小次郎が僕の顔を見てニヤニヤする。

『若林さんの事』
『ちょ…何言って…』
『若林さんって有名人だぜ、俺らの学校にも噂届いてるよ』
『噂?????』
『そ!天下の若林源三が初デートしたってウ・ワ・サ』
『小次郎〜ッ』
『相手の名前はハッキリしてなかったけど、
 何でも超貧乏人でみんな驚いてるって!』

小次郎がパシャッと僕にお湯をかけた。

『岬だよな?』

前髪から滴り落ちる熱い雫。
でも、否定出来ない。

『一緒に居たのは事実だけど、で…デートじゃないよ』
『ふ〜ん…』

小次郎が訳知り顔で笑った。
僕も小次郎にお湯をかけ返す。
ううううう〜ッ!どうやったら伝わるかな?

『今、僕が小次郎とこうやってるのもデート?』
『は?』
小次郎がビックリして僕を見る。
『岬、何言ってんの?』

『僕と若林さんも…普通にご飯食べたりしただけ!』
と…思いたい。。。

『そっか…でもさ、若林さん、絶対お前の事好きだよな』
『え?』
『語るに落ちるって言うか…見てリャ分かるよ。
 で、前にも聞いたけど…岬は?』


目の前に夜景が広がった。
あの日、ホテルで若林さんが言った言葉。
僕を…好きだって・・・
その後、僕達、き…キス・・・


イキナリ立ち上がった僕に小次郎が驚く。

『なんだよ、岬』
『のぼせて来たから身体洗う』

『岬、顔赤いぞ〜』
『小次郎、うるさいッ』

でもほんと、思い出して頬が熱くなる。
頭から冷たい水をかぶった。

若林さんにちゃんと返事してない。
それなのに、僕に変わらず優しく接してくれてる。
もしかして待っててくれてるのかな?
それとも、発熱と共に忘れてる?

僕の正直な気持ちってどんなだろ。

前は会うのも怖かったけど、
なんだか一緒に居るのが嫌じゃなくなって来た。
それより、心の隅にいつも引っかかってて
若林さんに何かしてあげたいと思う。
でもコレが好きって事なのかな?
小次郎とか松山にだって  大空翼にだって
同じ様に『何かしてあげたい』って思ってる。



『若林さんに…好きだって言われた』
隣で身体を洗ってる小次郎に呟く。
『は?』
突然の告白に、小次郎が持ってたスポンジを落とす。
『マジで?』
ポカンとしてる小次郎に無言で頷く。
『でも…正直、僕…良くわからないんだ』
小次郎がゆっくりとスポンジを拾った。

『若林さんの方が年上だし、凄い人だから
 友達って呼んだら申し訳ないと思うけど
 僕の人生で、父さんとか、他の友達と同じくらい
 今では大事に思ってるんだ…でも…
 この気持ちが若林さんと同じ『好き』なのかどうか
 まだ良く分からなくて、付き合おう、って
 言われてまだ返事してないけど・・・
 今日みたいに一緒に居られたらいいな、って思う。
 僕が返事して、何かが壊れちゃったら・・・』

僕の言葉を聞きながら
小次郎が後ろに来る。

『背中、洗ってやるよ』
『う…うん』

暫く、小次郎は無言だった。
泡の付いたスポンジで僕の背中を行ったり来たりする。
その手が止まって、大きな溜息が聞えた。

『なあ岬、あんまりアセんなくていいんじゃねえか?』
『アセる???』
『お前さ、いつも色々ガマンしてるから
 答えを迫られるのに慣れてないだけだよ』
『え?』
『自分の事ばっかり考えてると、答えってすぐ見つかるけど
 ど〜せお前の事だから、こう言ったらどうなる…とか
 色々人の事も考えてるんじゃねえ?』

小次郎・・結構鋭い。
学園の中で、今だって注目されてるのに
あれ以上のゴタゴタに巻き込まれたら・・・

慌てて頭を振って想像を追い出した。

『ま、ソコが岬のいい所だけど サ!』

背中にお湯を流してくれる。

『今度、僕が背中洗うよ』
暫く無言で小次郎の背中を洗う。

『でもさ、岬、若林さんってやっぱりいい人だよ』

小次郎の背中にお湯をかけた。


『分かってるよ・・・』


湯船に戻って一息。

『いつも絶対弱音っぽい事言わない岬が
 今日、自分の事話してくれて俺、嬉しかった』
『え…』

前に三杉さんに、若林さんが僕と会って
随分変わったって言われた。
僕も…若林さんに出合ってから、少し変わった気がする。
前は言葉を飲み込む事が多かったけど、
ちゃんと言いたい事も言えるようになったし
自分の周りの人の大事さに改めて気がついたり。

『俺、岬と銭湯行ってるなんてバレたら殺されるな!』
小次郎が笑った。

もうひとつ、心に浮かんだ言葉を口にする。
『若林さん、高校卒業したらドイツ行っちゃうんだって』
『そっか…』
『良く分かんないど、それまでは仲良くしてたいな』


そう、コレが僕の正直な気持ち。


僕達は湯船から上がって牛乳を飲んだ。

『じゃあね、小次郎、またバイトで!』
『おう!明日からまた部活頑張れよ』
『小次郎も』

歩き出した僕に、小次郎が後ろから声をかけた。

『若林さんの事!あんまり考え過ぎるなよッ!
 でも、自分の気持ちには正直に…ナ』

そう言って駆け出した。

自分の気持ちに正直に。
うん。
今はまだ形にならない、モヤモヤした気持ち。
でも、コレが今の僕の正直な気持ち。
若林さんともっと一緒に居たいって言うのも
僕の本当の正直な気持ち。

明日、お弁当、美味しいの作ろう・・・












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