『岬、どうしよう、ごめん!!!』

帰り道、松山は謝りっぱなしだった。

『もういいって』

あの若林って人。
なんで僕の顔、ジッと見てたんだろう。

『絶対、青札貼られるって・・・』
『なんとかなるよ』

そう。
僕は父さんと約束したんだ。
この、私立陽壱学園で一番になるって事。
絶対、陽壱学園のサッカーをモノにして
父さんの居るフランスに行くって事。
青札を貼られようが何しようが
約束したんだもん、辞める訳には行かないんだ。


『じゃ、松山ココで…』
『ホントにごめんな。俺、
 青札貼られても岬とは友達だから』
『…分かってるよ』

青札・・・・
貼られたらどうしよう。


***************

青山にあるクラブのVIP席に
様々なライトが色とりどりの影を投げる。
大きな影がユラリと現れた。

『源三、遅せえよ』
『お前ら探しに学校行ったらエライ目に合った』
『パーティは6時半からって言ったじゃないか』
『つか、源三、何ニヤニヤしてんの?』
『なんかイイコトあったんだろ?』
『別に…違うよ…ただ・・・スゲエ可愛い子に会ったんだ』
『おおッ!ついに源三も童貞喪失の予感?』
『ッ!やめろよッ!』
『翼と言い、源三と言い、クリスマス前に良い感じだねえ』
『翼?』
『そ!翼がパートナー見つけたんだ』
『なんか可愛い子だったよな』
『うん。サッカーすげえウマくて、翼と息もピッタリ!』
『ウチの学校で?』
『そう!見た事無いから、アレ、転校生だよな』
『あ…名前なんだっけ・・・オイ、翼、なんて言ってた?』
『岬。岬クンって言ってた』
『オイ…源三、どした?顔青いぞ?』
『みさきって・・・』
『俺、コレから部活真面目に行こうかなって思ってるんだ』
『え〜ッ!翼、ソコまで惚れたかッ!!!』
『岬クンも楽しいって言ってたし』
『コイツ、可愛いなあ』
『オイ、源三?大丈夫か?』

『源三…なんで今来たのに帰るんだよ』
『翼が岬クン岬クンって言うからじゃねえの?』
『源三、翼にホレてんの?』
『さあ〜でもムチャクチャ機嫌悪そうだったな』
『源三、小さい頃からちょっと屈折してるから』
『もしかして・・・源三の言ってた可愛いコって』
『岬クンって事?』
『ありえない!部活なんて出ないから知らないハズだし』
『あいつ、小さい頃から自分のオモチャ取られるの嫌がったよな』
『うん。スゲェ独占欲強いから・・・』


*************************


次の日。
ロッカーを開けた僕の目に飛び込んで来たもの。
全日本のユニを思い起こさせる青い紙。

 C4

2文字が風に揺られて僕の前に存在した。


『青札だ!アイツ、青札貼られたぞ!!!』
『青札だぁッ!!!』

気がつくと、半径3m以内に誰も居ない。
『あ…』
人の輪の中に、松山の顔を見つける。
『松山』

松山が真っ青な顔で僕を見た。
『岬、ごめん…』

そのまま、コッチを見ずに走り去る。

『中流階級の友情なんてそんなモンだよな』

声のした方に振り返る。
!!! 若林源三 !!!

『まあ、お前がちゃーーーんと俺様に
 謝るって言うなら許してやってもいいぜ』

む…ムカつくぅぅぅ〜ッ!
昨日、あんなに謝ったのに!!!
松山がぶつかったのだってワザとじゃないのにッ!!!

勢い良く青札をむしりとって
若林さんの帽子に貼り付けた。

『僕は負けない。宣戦布告だッ!』
『え…あ…オイ…』

オロオロする若林さんに背を向けて走り出した途端、
誰かが僕に足を引っ掛けた。
『いった・・・』
口の中に血の味がする。

『見ろよ、コイツ、コケてやんの』
『やっちまおうぜ』

沢山の手が、沢山の足が僕に向かって来る。
ドコを殴られてドコを蹴られてるのかもわかんなくなった。
父さん。
僕、こんなハズじゃなかったのに・・・
ただ、静かに学園生活を過ごして、
サッカーしてフランスに行こうと思ってたんだ。

『お前ら、やめろよ!!!』

遠くで誰かの声がした。
僕を殴ってた手が遠のいて、
誰かが僕の肩に手を置いた。

『お前ら、いい加減にしろ!!!』

力強い手が、僕を抱き起こす。

『大丈夫?岬クン』

あ…大空翼だ。
でも大空翼もC4だよ?
僕にこんな事して大丈夫なのかな…

*************************


『…さき・・みさき!』
目が覚めたら、真っ白な世界だった。
目の前に松山の心配そうな顔が広がる。

『みさき!気がついたか?』
『松山・・・』

松山が急に僕の手をギュッと握った。

『ホントにごめん!!!』

深々と頭を下げる。

『なに?』
『俺、青札にビビって…』
『ああ、いいよ、そんなの』
『良くねえよ、本当にごめんな』
『いいよ』

だって、僕たち、何も間違った事して無いし。
松山だってビックリしたダケだよね?

『ココ、どこ?』

首を回そうとするけど、なんか痛くて動けないや。

『保健室。大空先輩が連れてきてくれたんだよ』
『ああ・・・』

そうだ。
あの時、あの強い手は大空翼だった。
僕の事抱きかかえてくれたのは覚えてる。
そっか・・・

『青札…ホントにごめんな』
『いいよ、僕は大丈夫』

松山のすまなそうな顔。

『松山も僕と一緒に居たら、イジメられるよ?』
『!!! 俺はそんなの平気!だって俺達友達だろ?
 なのに…さっきは本当にごめん。。
 コレからは俺も一緒に戦うからッ!!!』
『いいよ…ありがとう』

松山が僕の手をギュッと握った時、
保健室のドアが大きく開いた。

『あッ…わ…わか…ばやし…』

松山の体が硬直した。

改めて見ると、ホントに大きい。
物凄い形相で松山を睨んで、席をどかした。
『お前、出てけ』
『え???』
硬直してる松山を睨みつける。
『何もしねえから、部屋を出ろッ』
僕と若林さんを交互に見ながら、
松山はそうっと部屋から出て行った。
若林さんが椅子にどっかり座り込む。

なんだろ〜
どんなイチャモンつけに来たの???

『さ…さっきは悪かったな…
 俺も驚いて止めるヒマが無かった』
『え?』
『周りのヤツラが暴走したって事だよ』
『・・・』

でも青札貼ったの若林さんだよ?
なんか…展開おかしく無い?

『お…俺はタダお前とちゃんと話がしたくて…ソレで…』

照れ臭そうに目線を逸らした。

『だって・・・』
『うるさいッ!』

ひえ〜ッ 良くわからないッ!!!

『なんで翼と仲が良いんだ?』
『え?』
『なんで翼がお前をかばうんだよ』

そんな事、コッチが聞きたいくらいなのに。

『そんなのおかしくねえか?』

おかしいかと聞かれても・・・

『お前、翼の事好きなのか?』

話が飛躍しすぎでついて行けない!

『あの…若林さん・・・』
『あ?』
『僕、先日大空先輩と知り合ったばかりで
 一回一緒にサッカーしたダケです』

突然。若林さんが笑い出した。

『だよな』

   でも、その時凄く
   充実した時間を過ごしたんです。
   大空先輩と一緒に走って、
   サッカーが楽しいって思いました。
 言えない僕の気持ち。

『だよな!翼とお前はソンなモンだ!』

勢い良く立ち上がると、大股にドアに向かった。

『お前をいじめていいのは俺だけだ』
『は?』

笑いながら若林さんが出て行った。
入れ違いで松山が入って来る。

『岬?さっきの…なに?』
『さあ…』
『岬、放課後迎えに来るから寝てろ』
『うん・・・』

体のあちこちがズキズキ痛む。
青札・・・コレからも毎日こんななのかな?
でも、僕は父さんと約束したんだ。
だから
負ける訳にはいかないッ!!!

松山が迎えに来るまでちょっと眠ろう。


*******************************************

なんか、体がフワフワしてる。
傷も凄く痛かったけど、今はそんなでもないや。
なんか、凄く気分いい。
保健室のベットってこんなに気持ち良かったっけ?

どこか近くで小鳥の声がする。
なんか、凄くいい匂い。
多分、紅茶かな? 
いいなあ、紅茶飲みたい。
って      紅茶?

『え?』
目を開けたら上に天使が居た。
青空の中で、ラッパを吹こうとしてる。
僕、もしかして。
天国に来ちゃった???
『どこ?ココ・・・』

『気がついたのかよ』

『イタ…』
なんとか起き上がって辺りを見渡す。

凄い仏頂面の若林さんがそこに居た。
足元にある豪華そうな椅子に座って
手には紅茶のカップ持って。
ああ、だから紅茶の匂いがしたんだ。

って・・・
ココ・・・

『ココ、どこですか』
『ココ、俺んち。テメエ、ちゃんと飯食ってるのかよ』

乱暴にカップをテーブルに置くと
立ち上がってベットの端に座る。

『お前、ガリガリだな』
『は?』
『持ち上げたとき、あんまり軽くてビックリした。
 ちゃんと飯を食え』

ちょ!
ちょっと意味が良く分からないんですけど。
なんか良く分からなくて、辺りを見渡した。
僕が寝てる広いベットは優しそうな天蓋つき。
手触りがツルツルの気持ちいいシーツ。
天上まで届く窓からは明るい光が差し込んでて
高そうなカーペットに降り注いでる。
置いてある家具の数々も、絶対高いハズ。
それにしても、体育館並の広さの部屋…
僕が今住んでる4畳半のアパートが
この部屋の中に幾つ入っちゃうんだろ・・・

『お前、人の話聞いてんのか』
『あ・・・』

自分の手に、包帯が巻かれてた。
さっきより傷が痛くないなと思ったけど
手当てしてくれたんだ。

『ありがとう』
『は?何がだよ』
『傷。手当てしてくれたんですね』

『そ…それはだな…その…』
若林さんが急に目線を逸らして頭を掻いた。

『さっきより大分楽になりました』
僕が笑いかけると、若林さんがベットから立ち上がった。

『アレ・・・』
なんか僕、大事な事を忘れてる気がする。
『でも・・・』
『何だよッ!』
そうだ。

『でも、僕がみんなにやられたのって、
 若林さんの青札のセイですよ?』
『!!!』

『なんで僕に構うんですか?』
『それは・・・』

なんか思い出した。
理不尽だよ。

『僕、若林さんに何かしましたか?』

そもそも、ぶつかったのだって僕じゃないのに!

『僕は…』
『うるさいッ!!!』

急に若林さんが大声を上げる。
ひぃ〜ッ! 怖いッ!!!

『お…お前が…お、お前が悪いんだ』
『僕、何もしてないじゃないですか!』
『お前が その… 翼と仲良くするから…』

え?

『俺が折角見つけたのに、お前は俺より
 翼と居るほうが楽しいって言ったんだろ』

何言ってんの?大丈夫???

『ちょ…僕は何も言ってませんけど』

つか、大体若林さんとだって初めて話すのに。

『うるさいな、翼がそう言ったんだよ』
『翼先輩が何て言ったのか知りませんけど、
 僕、翼先輩とだって昨日会ったばかりなんです』
『だって翼が・・・』

あ〜ッ!もうッ!!!
そんなに僕と翼先輩が仲良くするのイヤなのかな。
ああ、そっか、だって幼稚舎から一緒だったって…
あはは。若林さんって子供みたい。

『若林さん、僕、翼先輩の事を
 取ろうなんて思ってませんから…』
『違う!』

また発せられた大声に、僕の背中がビクとしなる。

『翼が俺からお前を取ったんだ』
『え』

気がついたら、僕は若林さんの腕の中に居た。
ほんのり漂う高そうなコロンの香り。

『俺が折角見つけたのに・・・』

見つけたって何を?
若林さんの腕が更にきつく巻き付いて来る。
あ なんか、 ドキドキしてきた。
ずっと一人で頑張って来て、
こんな風に優しく包まれたのって初めてだ。
どうしよう。
胸が凄く苦しい。

『は…離して下さい』
『傷、痛むか?』

離して欲しいのに、
若林さんの手が僕の頭を引き寄せた。
その逞しい胸に僕の頬がぺたりとくっつく。
なんか、そのままずっと身体を寄せてたくなる。
どうしよう こんなの、ズルイ!

『青札貼ったら、その獲物は俺のだから
 ただお前と話がしたくて貼ったけど…
 みんながあんな風になるなんて思わなかったんだ。
 青札、撤回するよ・・・ごめんな』

顔から火が出そう。
なんか、僕変だよッ!

身体を離そうともがいた時、
僕の腕に激痛が走った。
『イタッ…』
バランスが崩れて、2人そのままベットに倒れこむ。

『え…』

僕。
僕の唇。

嘘。
若林さんと僕・・・

硬直してる若林さんをどかして起き上がる。

『…ぼ…僕、紅茶頂きますね…』

フラフラと立ち上がって紅茶のカップを掴む。

何?今の?
僕、若林さんとキ…キスッ???
違う、今のは 事故。
事故だから!!!

ゴクゴクと紅茶を飲干して
ベットをチラと見やる。

真っ赤な顔した若林さんが居た。

『俺…』

まずい。
事故、アレは事故だったんだから!
話題。
話題を変えよう。

『お…お庭見せてもらってもいいですか?』

こ…声が上ずってるよ、僕。
落ち着け。
落ち着くんだ。

窓辺に寄って、大きく深呼吸。
目の前に、学校と同じ様な 森 が広がってた。
『うわあ…凄いお庭(?)ですね…』
テニスコートも…温室プールもあるよ。
サッカーのグラウンドまである。。。

静まれ。
静まれ、僕の心臓。

『凄いなあ…』
『使うの、俺しかいねえから』

気がつくと、すぐ後ろに若林さんが立ってた。
僕の肩に両手を巻きつけてくる。
うわあああ
どうしようッ!!!

『親も兄貴もみんな海外に居て
 この家は俺しか住んでねえし』
『え?』
こんな広い家にいつも一人なんだ。
なんか、寂しい感じがする。
もしかして若林さんがこんなに乱暴なのも
寂しさの裏返しなのかな?

『若林さん、部活で見かけた事無いですね』
あ、つい会話なんかしちゃった。
『俺、天下の若林財閥の息子だぜ、
 学校のサッカー部なんかで練習出来るかよ。
 ちゃんと西ドイツからコーチも呼んでるし』
『じゃあ、いつも一人で練習してるんですか』
『まあな』

『そんなの…そんなの寂しく無いですか』

こんな広い家にたった一人。
いくら優秀なコーチを呼んでも
一人で練習なんて寂し過ぎる。
だってサッカーはみんなでやるスポーツなのに。
僕が甘いのかな?

『お…俺は世界を目指してるんだぜ。
 寂しいとか言ってるヒマねえし』

なのに、僕の肩に回してる両手が
ちょっと、ほんのちょっとダケ震えた気がした。
もしかして若林さんって本当はいい人???

『今度、僕等と一緒にサッカーしませんか?
 いつも日曜日、他の学校のみんなと
 河原でサッカーやってるんです』

両手がパッと離れた。

『んなもん行くか、ばーか』

カッチーン!
若林さんが寂しそうだから誘ったのに…
やっぱりムカつく!!!

『僕、帰ります』
『なあ、岬、さっきの…』

うわああ〜ッ   思い出した!!!

『アレは…事故です』
若林さんに向き直る。
『 じ こ だったんですッ!!!』

『じ…こ?』
『そう』
『さっきの青札の話なんだけど』

ああああああ…
ヤバイ。意識してたの、僕だけ?

『青札、撤回してやるよ。ちゃんと皆にも言うし。
 そんでお前は俺の取り巻きに入れるからな』
『は?』
『明日、制服とかカバンとかみんな用意してやるから』
『ちょ…何言ってるんですか?』
『俺の取り巻きに貧乏人は置けないから、
 せめて身なりだけでもちゃんとしてもらう』
『はあ?』
『お前の親父さん、売れない画家なんだろ?
 なんなら若林財閥でバックアップしてやってもいいぜ』

かっちーーーーーーーーーーーーん!

『ばか』
『は?』

『ちょっとでも若林さんがいい人かも…
 なんて思っちゃった僕がバカでした』
『え…オイ…岬』

若林さんが伸ばしてきた手を振り払う。

『若林さんはタダのお金持ちの坊ちゃんで
 ワガママで最低な人です。いくらサッカーが
 強くて世界に通用する有名人だからって
 僕にそんな事を強要する権利はありません』

制服の襟を正した。

『青札、撤回しなくて結構です。
 僕はどうなってもいいけど、
 父さんを侮辱するのダケは許さないッ』

『・・・』

『手当て、ありがとう御座いました』



思いっきりドアを閉めて広い廊下を走り抜けた。
若林さんのバカ。
若林さんの腕の中が暖かいなんて、
ちょっとでも若林さんをいい人だなんて、
事故だけどキスした時にドキドキした事…
自分が悔しくて悲しくなる。

『最低』

にしても…

『この家、玄関どこ〜???』


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