次の日。
僕は冷蔵庫を引き取ってもらおうと
一生懸命C4を探したけど見当たらない。
お昼近くになって、勇気を出して食堂に行った。

『オイ、あれ、ボンビー岬じゃねえ?』
『ホントだ…何しに来たんだよ』

無視 無視。
冷蔵庫、引き取ってもらわなくちゃ。
コンセントに入れた途端、家のブレーカー
全部落ちちゃうもん・・・

食堂の2階。
C4の席に面々を見つける。

僕が階段を登ろうとした時、
一人の男性がサッと僕を追い抜いて行った。

誰?

『ロベルト!!!』

大空翼の声がした。

『翼…みんな…』

『会いたかったよ、ロベルトッ』
『翼、大きくなったなぁ』
『久しぶりです、いつ日本に着いたんですか?』
『さっき…アア…みんなも逞しくなって…』

二階に着いて僕が見た光景。

大空翼が一人の外人さんに抱きついて、
それこそ泣きそうな顔してる。
みんなも感極まった顔して、
ワイワイ取り囲んでた。

ああ…
じゃあこの人がロベルト本郷。。
大空翼を日本一のプレイヤーにして
小学校の時、ブラジルに帰った人だ。

『お!岬じゃん…』

若林さんが素早く僕に近寄ってくる。

『僕…その…』
『なんだよ、お前もロベルトのファンか?』
『ちが…』

この再会の喜びの場に
冷蔵庫引き取れは無い…よね。

『そう…です』
『そっか・・・』

若林さんに腕を捕まれて、
ロベルト本郷の前に立った。
大空翼はまだ、しがみついたまま。

『コイツ、岬』
『やあ、はじめまして』
『は…はじめまして…』

『岬は翼と良いコンビプレーするんですよ』
若島津さん ナイスフォローッ!
『そうか…翼を宜しく頼むよ』
『は…ハイ…』

思わず握手。

『そんな訳で今日はごめんな、岬』
若林さんのすまなそうな顔。
『また遊んでやるから』


冷蔵庫の事も、今はどうでも良くなっちゃった。
だってあんな…
あんな大空翼を見たのは初めてで・・・

その日も、次の日も、その次の日も
大空翼は練習に来なかった。




*********************

『ロベルト、今回はまた目の事で?』
『うん、やっぱり日本の技術は進んでるから』
『そっか…翼…オイッ … 翼コッチ来いよ』

『うん』

C4に囲まれたロベルト本郷を
大空翼はただ笑って遠くから見ている。
そんな日が、何日か続いた。


************************


『なんか大空翼が居ないと、練習つまんないや』
『お…!岬、問題発言じゃん』
『松山…違うよ』
『まあな、ちっとも締まんないしなあ…』


大空翼。
アレから一度も非常階段にも来ない。
どうしてるんだろう…

バイトの帰り道、大空翼の事を考えて
トボトボ歩いてた。
あの、大空翼の嬉しそうな顔。
あんな笑顔、見た事無かった…


『どうした、貧乏少年』
『え?』

気がつくと、三杉さんの車が横に止まってる。

『あああ…』
『やあ、君、また会ったね』

ろ…ロベルト本郷ッ!

『ロベルトはウチの病院にかかってて…
 今からホテルに送って行く途中なんだ』
『そうですか…』
『なんか、元気無いね』
『そんな事無いですよ…』

僕の顔を見て、三杉さんがフと笑う。

『そうだ、岬クンもおいで』

手渡された白い封筒。

『なんですか、コレ?』
『ロベルト本郷の来訪記念パーティ。
 明日ハイブリッジホテルでやるから…じゃあ』



家に帰って封筒を開いた。

服装:正装

やっぱりなあ…
僕、スーツなんて持ってない。
でも、大空翼に会えるかも。

あんなに嬉しそうな大空翼。
僕と一緒に走ってる時だって
あんな顔…   見た事無かった。


********************


うひゃああああ〜ッ!!!
ウワサには聞いていたけど、
ハイブリッジホテルって。。。
凄い。


今日の午後、急いで松山にスーツ借りて
駆けつけた会場は豪華絢爛。
僕なんかの来る所じゃ無い気がした。

『お!岬ッ』

若林さんの声。

『なんだよ、来てたのか…
 って…貧乏くせえスーツだな!』

僕を捕まえて、頭をグリグリ撫でる。

『失礼な…友達に借りて来たんですッ』
『友達って、あの松山ってヤツか?
 ま、あいつも中流家庭の匂いプンプンだもんな』
『…っとに…怒りますよッ!!!』

相変わらず腹が立つけど、
この雰囲気の中でこの親しさが嬉しかった。

『ああ…僕が誘ったんだ』
『岬クン、いらっしゃい』

若島津さんも三杉さんもピシッと決めてて
さすが日本を背負うJrって感じがした。


若林さんとかと別れて、一人でご馳走をパクついた。
若林さんがコッチをジロジロ見てるけど、
色んな人に捕まってて、なかなか来れない。

『ん!これ美味しいなあ〜…』

この間、若林さんが言ってたセリフ。
『今度俺の分の弁当作れ』
って…こんな料理、どうやったら作れるんだろう。
一人でバルコニーのテーブルで料理をつつく。

『オイ、見ろよ』
『貧乏人はプライドってモンを持って無いのか?』
『なんでアイツがこんな所に…』

声のした方に振り向くと、
来生、滝、井沢の三人が立ってた。

『お前、なんでこんな所に居るんだよ』

うわ〜… マジで怒ってる感じ?

『僕、三杉さんに招待されたんです』
『ウソつけッ!!!』

う…ウソって言われても。。。

『ココはお前なんかの来る所じゃないんだ』

なんか、カッチーんと来た。

『早く帰れよ、貧乏人ッ!!!』
滝クンが僕の手を引っ張る。

『ちょ…やめ…』
来生クンと井沢クンがシャンパンのグラスを揚げた…



頭の上から冷たい液体がかかる…
『え…』

コレ、松山に借りたスーツ・・・
僕は床にひざまづいて、濡れるに任せてた。
だって…こんな事、
ホント???

『みっともないなあ、貧乏人は』
『ホント、ドロドロじゃん』
『早く帰った方がいいんじゃないか?』

3人の高笑いの中、僕は呆然としてた。
だって僕、この3人に何かしたのかな?

『お前みたいな貧乏人が若林さんの気に入るなんて』
『ホント、ムカつく…』
『とっとと帰れよ』

突然、高笑いが止んだ。

『大丈夫?』
目の前に、差し出された白いハンカチ。

『あ…』

目を上げると大空翼が居た。

『濡れてるよ、大丈夫?岬クン』

『大空…先輩・・・』

『つ…翼先輩…僕達…その…』
『悪気は無いんです…』
『あは…あはは…』

三人の言葉をモノともせず、僕に手を差し出す。

『ロベルトの部屋に行こう』

なんだか良く分からないまま、
エレベーターを登る。

『ロベルト、翼だけど…』

突き当たりの部屋で大空翼が声をかけた。

『翼…どうした?って…君、大丈夫かい?』
『なんか、代わりの服取り寄せるから、シャワーさせて』

多分、このホテルのスィート?
絨毯サクサクの、豪華な部屋に足を踏み入れた。

『おいで、岬君』

ロベルト本郷に手を引かれて、
豪華なバスルームに足を踏み入れる。

『もう大丈夫だから、シャワー浴びておいで』
『あ…ありがとうございます…』

手早くシャワー浴びて、髪を乾かした。
もうもうと湯気の立つ中、ドアを開ける。

『本当にすみません…』

見渡したけど、大空翼の姿は無い。

『さっきの服はクリーニング出したから、
 コレを着るといいよ』

新しくて、高そうなスーツ。

『あ…でも僕…』

ロベルト本郷がニコっと笑った。

『翼が今下で買ってきたんだ。サイズ、合うといいね』

『でも…』

『NO!日本人の悪いクセだよ。
 翼の好意を無駄にしないでやってくれるかな?』

『・・・』

僕が隣室で急いで着替えて戻ると、
ロベルト本郷が僕を窓辺の椅子に座らせた。

『岬クンって言ったね』
『ハイ…』
『俺と翼の事は知ってるのかな』
『ちょ…ちょっとだけ…』
『翼との会話に、良く君の名前が出てくるよ。
 なんか凄く息が合うって言ってた』
『僕も大空先輩と走るの、楽しいです』
『翼は…小さい頃はあんなに静かな子供じゃなくて
 とっても活発で、サッカーの神童と謳われてたんだ』

ロベルト本郷が大きく息をつく。

『自分の手で、翼を一流の選手に育てようと思ってた。
 けど…翼にはもっと別の可能性が有る様な気がして…
 一人でブラジルに帰ってしまったんだ。その後かな、
 翼は友達と交わる事もせず、プロと練習ばかりして
 技術だけは磨いてるとウワサに聞いてた…
 だから翼から君の話を聞いて嬉しく思うよ』


大空翼の声が木霊する。
『(俺、友達が居ないから)』

『何故…大空翼を置いて帰っちゃったんですか?』

もしかしたら。
僕がしてはいけない質問なのかも知れない。
でも…あんなに寂しそうな大空翼の顔・・・

『もっと別の可能性って…そんなの…
 本当は別の理由が有って・・・』

ロベルト本郷がクスッと笑って、
人差し指を自身の唇に当てた。

『もうすぐ記者会見なんだ…行こう』


僕は先にホールに入って行った。
まだあの三人が居るのかな…
不安そうな僕の顔を見つけて若林さんが寄ってくる。

『岬…聞いたぜ。何か有ったらすぐ俺に言えよな』
若林さんが僕の頭を優しく撫でた。
さっきの会話が胸に突き刺さる。
『もう、大丈夫ですから…』
『あの三人には強く言っといたし』
心配そうな若林さんの視線。
『あいつら、ちょっとスネてるんだよ』
『そうそう、今まで源三のお気に入りだったから…』
若島津さんと三杉さんの声が耳に入る。
2人の向こう、大きな窓の下に
大空翼がポツンと座ってた。
放心した様な、どこにも無い視線を落とす。

『若林さん、ちょっといいですか?』
腕章した記者達がC3に群がって、
僕はその場を離れて行った。

『もうすぐ記者会見始まるぞ〜ッ』
誰かが大声で叫んだ。
会場に緊迫した空気が流れる。


僕はそっと窓辺に近寄って、
大空翼の隣に座る。


『大空先輩…』

僕に弱々しい笑顔を向ける。

『やあ…』
『今から記者会見って…』

『俺が小学校の頃、ロベルトはウチに一緒に住んで
 俺にサッカーを教えてくれたんだ』

誰に話すでも無い会話。

『それまでモヤモヤしてた
 サッカーを好きだって気持ちを
 ロベルトが初めて形にしてくれて…
 俺は本当にサッカーを好きになった。
 ロベルトが居たから全国大会も勝ち抜いて
 一緒にブラジルに行こうって約束したんだ』

大空翼の横顔。
眩しい太陽を見てるみたいに目を細める。

『でも…突然、ロベルトはブラジルに帰っちゃって…
 ずっと会いたかったけど、今でも素直になれなくて。
 俺がロベルトに何かしたんだろうか…とか…
 ずっとそんな事ばっかり考えてたのに・・・
 再会した瞬間ロベルトは全然普通だった。
 一言謝って終わり。
 俺を子供だと思って、約束破る事なんて、
 何も気にしてなかったのかなぁ…』

『そんな事無いですよ…』

僕が言いかけた途端、沢山のフラッシュが焚かれて
ロベルト本郷が姿を現した。

『今回の突然の来日の目的は?』
『Jリーグで監督をするって噂は本当ですか?』

なんか、勝手に話が進んでるみたい。
僕は心配で、チラと大空翼を盗み見る。
諦めた様な顔の大空翼が横に居た。

『今回は目の治療で日本に来ただけなので…』

ロベルト本郷も返答に苦労してた。

『大空選手との確執はどうなんでしょう???』

会場が一瞬緊張した。。。
って僕が思ったダケかな?

『確執なんて何もありません。ただ、翼には
 翼にしか出来ないサッカーをして欲しいと思ってます。
 …5日後にはブラジルに帰るので…』

大空翼が立ち上がった。

『岬クン…僕は先に帰るから
 他のみんなにそう言っておいてくれる?』
『あ・・・』

寂しそうな大空翼の背中。



それから3日間、
学校にも部活にも
非常階段にも・・・

大空翼は現れなかった。





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