『昨日の翼、なんかカッコ良かったな…』
『ほんと、大人になったなって思ったよ』

三杉、若島津のC2が食堂に上がる階段を登る。

『今頃、ロベルトに会ってるかな』
『アイツが小学生の頃は見てられなかったから
 今度こそ、ちゃんとロベルトの側に居れたらいいな』

C4の特等席に若林の姿があった。
なにやら熱心に見つめている。

『おい、源三!何してんだよ』

呼びかけられた背中がビクとしなり、
慌てて何かを袋に詰め込む。

『なんだ、お…お前らか』
『他に誰がココに来るってんだよ』
『源三、今、何隠した?』
『か…隠してなんかねえ…』

若島津が若林の手元から紙袋を奪い取った。

『あ!てめえ返せッ』

暴れる若林を三杉が押さえ込む。

『なになに…?え???』

手にした本を見て、若島津の動きが止まる。

『健 ヤメロッ』
『デートマニュアルだって』
『げ…源三がデーーーート???』
『バカッ!見るなよッ!!!』

笑い転げる2人に蹴りを入れて
本を手元に奪い返す。

『執事に言ったら、こんな本買ってきやがったんだ』
『ほおお〜自ら注文した訳だ』
『ちょ…ちょっと見てたダケだろッ』
『ちょっとねえ・・・なあ、相手誰よ?』
『こないだのモデルか?』
『ああ〜アイツ、源三に執着してたしなあ』
『待てよ…もしやあのパーティの金髪?』
『ブルネットの方だったりして!』
『うるせえ!お前ら…どっか行け!』
『嘘うそ、分かってるって』
『岬クン…だろ?』

若林の顔が一気に赤くなる。

『源三、かーわいいッ』
『ブッ…ぶっ殺すぞ、てめえ…ッ!』
『きゃ〜助けて〜源三に犯されるう〜』
『お前ッ』

若島津の胸座を掴んだ時、三杉が笑って手をかけた。

『冗談だよ、源三落ち着けって』
『それ以上言ったら本気で殺すぞ』
『ハイハイ…なあ、源三』
『なんだよ、健』
『こんな本に頼ってないでサ、
 源三らしく行くのが一番と思うよ』
『俺らしく?』
『そうそう…でも源三らしくって言ったら
 岬クン引いちゃうかもナア…』
『源三、ぶっきらぼうだし』
『とにかく、だ。岬クンみたいに正義感の強い子は
 回りくどい事しないで、ムードで押してけって』
『む…ムード???』
『なんかさ、岬クンが普段見れない様な夜景見て
 ウマイものでも食ってホテルってコースどうよ?』
『ほ…ホテル???』
『オーソドックスだけど、それなら源三も
 間違い犯さないだろうしな』
『オードソックス???』
『とにかく優しく!お前、強引な所あるから』
『岬クン謙虚だから遠慮するかも知れないけど
 そこは巧くお前がリードしてやれよ』
『そうそう、どんな所にいても
 俺が居るから安心しろ…みたいな感じで!』
『お!淳、いい事言うねえ〜』

勝手に盛り上がる2人を尻目に
若林の頭に???マークが幾つも浮かぶ。

『(夜景に飯にホテルかあ…)』

『とにかく!』
『頑張れよ、源三』





デートって言ってた?
確かにそう聞こえたけど・・・
僕の幻聴って事もあるよね。
僕、やっぱりどこかで
若林さんの事意識してるから。。。

『どした?岬、元気ないじゃん』
『松山…なんか…ね』
『翼先輩、行っちゃったしな』
『そ…そんな事じゃないよ。僕、大空先輩が
 ブラジルに行ってくれて嬉しいもん』
『なら、なんでだよ?』
『・・・何でも無い』
『行こう!次、実験の授業だぜ』

ざわついた教室の中で荷物をまとめて
席を立った時、辺りが急に静まり返った。

『岬』

ズカズカと若林さんが近寄って来て
凄い勢いで僕の机の端を掴む。

『明日、ハイブリッジホテル前の公園。
 時計前。午後の5時。ちゃんと来いよ』
『は?』

言う事だけ言うと、若林さんは背を向けて
大股に教室を出て行った。

明日?午後5時???
やっぱりコレって・・・
デートの誘いって事??????

『なんで若林さんが・・・』
『ワザワザアイツに会いに来るんだよ』
『貧乏人のクセにホントにムカつくッ!』

教室の入り口に滝・井沢・来生の3人が居た。


『何?岬、今のナンだよ???』
『さあ…』
『お前、若林さんと何か有るのか?』
『・・・何も無い(と思う)・・・』

その日。
僕は授業も部活も

殆どうわの空で過ごした。



**************************



『お前、約束の時間じゃねえの?』

小次郎が仕込みの手を休めて僕に言う。

『うん…でも、ホントとは思えなくて』
『なんでだよ、5時って言ったんだろ?』
『だってあの若林さんが僕を誘うなんてさ・・・』

そうだよ。
ちょっと仲良く(?)なったとは言え、
若林さんはC4で、僕なんかを相手にする訳無い。
一緒に出かけるって言っても…僕は若林さんと
全然住む世界の違う貧乏人だし、一体。。。
一緒にドコに行くって言うんだよ。

『今日は寒いね』

僕は黙々と大根の皮を剥き始めた。


『おう、お前ら、今日はもういいぞ』

おじさんが僕等に声をかける。
時間は7時半。
アレから2時間半も経ったんだ…
もう、待ってたとしても居る訳無いよね。

帰り支度をして、マフラーを首に巻く。

『なあ、岬、若林さんに次会ったら、
 米とか野菜の御礼、言っといてくれよな!』
『え…』
『みんな大喜びでサ…』

小次郎の声が遠くなった。
そうだ。いくら乱暴なやり方とは言っても
あの時も僕の事心配して・・・

『あ…雪』

見上げると、空から小さな雪が沢山落ちてきた。

『帰ろうぜ』

若林さんのセイとは言っても、
ちゃんと僕の手当てをしてくれた事。
ランチを奢ってくれた事。
沢山の食材をくれた事。
冷蔵庫くれた事。
パーティでは僕が萎縮しない様に
ちゃんと気を配ってくれてた事。

どれも僕を心配してやってくれてた事なのに…

『オイ、岬?』

僕、気がついてたはずなのに…

『小次郎、僕、急ぐから』


気温がどんどん下がって、
雪が更に降ってきた。

『(きっともう居ないよね…)』

毎日走ってるけど、さすがに肺が苦しくなって来る。
だけど、もっと早く動いて…僕の足・・・

ハイブリッジホテル前の公園に入る。
オレンジ色の外灯が、淡い光を投げかけて
降りしきる雪を優しく照らし出す。

『時計って…どこだっけ???』

そのモニュメントが近づいて来た。
息も荒く走り続ける僕の横を幾人もの人が通り過ぎる。
通り過ぎた女性の会話が耳に飛び込んだ。

『ねえ、さっきの男の子、格好良かったね』
『ホント、誰か待ってるのかな?』

『(格好イイ男の子?)』

   もしかして…
   もしかして


時計の前、積もる雪の中に
その姿が浮かんで来る。

『な…なんで居るんですか』

息を切って、若林さんの目の前に立つ。
僕の息が落ち着くのを、若林さんがジッと待つ。

『てめえを待ってたんだよ』
『ど…どうして…もう8時ですよ…』

若林さんが頭に積もった雪を払いのける。

『こんな寒い中で待ってるなんて・・・』
『お前…お前がドコかで
 事故に遭ってるかもしれねえし…心配だったんだよ』
『あ…』

やっぱり…心配してくれてたんだ。
思わず、若林さんの前にヘタリ込む。

『ごめんなさい…』
『ったく…遅れるなら、連絡くらい寄こせよな』

僕の手をギュッと握った。

『岬、体つめてえぞ』
『若林さんの方こそ…本当にごめんなさい』

次の瞬間、僕は若林さんの腕の中に居た。

『お前が無事で良かった』

あ・・・
また…僕の胸が激しく鼓動する。
さっきまで冷たかった雪が、
心の中に暖かく降り積もる。

『若林さん、風邪引いちゃうから…』

急いで身体を離した。

『ぼ…僕、暖かいお茶奢ります…』

のそっと立ち上がって、若林さんが大きく伸びをする。
『いいんだよ、ソレよりいいモン見せてやる…来い』
『だけど…』

こんな寒い中、ずっと待っててくれたなんて。
僕、どうして若林さんの事信じなかったんだろう?
ごめんなさい、ごめんなさい、と心の中で
必死に呟く僕の顔を見下ろして若林さんが笑った。

『でも岬ちゃんと来たから…もういい』
『・・・・・』
『行くぞ』

僕の胸の中のモヤモヤと一緒に
歩き出した若林さんの背中を追った。







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