『もう、若林君なんて知らない！』

岬が怒って俺の手を振り解く。

『もういい！勝手にしていいよ！！！』

俺を見据える目に涙。

きっかけはホンの、ほんの些細な事。
俺が何か言って岬が急に怒り出した。
岬がいつもの心配クセを出して
俺が突っぱねたから・・・・

『岬・・・』
俺が岬に手を伸ばす。
それが今の岬と俺との距離。
俺の手が触れるとき、
ビクっと一瞬岬の肩が震える。

いつもの岬の強がり。
平気な振りをするけど
ちっとも平気でなくて
岬の落ちる涙が
俺への思いを象徴する。
俺の気持ちなんて本当は知ってるのに。

俺たちの間でしか通用しない
この愛の駆け引きに
岬が先に落ちただけ。

岬のその我侭も、
俺を心配しながらも混じりえる
ほんの少しの嫉妬も
俺の胸をジンと暖めた。
岬にしか出来ない
俺の心に届く小さなカギ。

『なあ、岬・・・俺はそんなに
　簡単に他所をむけないよ』
だって・・・・
ずっと岬を見てるから。
いや、
ずっと岬しか見てないから。

岬と俺は違う環境、
違う人生を歩いてきたけど
でも求め合うモノはきっと一緒で
お互いが相手に与えれるのって
ほんの
ほんのわずかな幸せな事。

でもそのホンの一握りの幸せが
本当は二人が渇望していて
きっと俺たちが互いにしか
与えることの出来ない事。

だからずっとこれからも
岬と一緒に歩いて行きたいんだ。

『岬』

俯いた岬を近くに引き寄せて
ギュっと抱きしめた。

『でも、言ってくれてありがとう』

そうなんだ。
おべっかを使うやつとか
俺の顔色を見て態度を変えるとか
岬はそんなヤツとは全然違う。
俺の事を自分と同じように思ってるから
そんな真摯な態度が出来るんだ。

『これからも、俺にちゃんと言ってな』

表面上で取り繕うよりぶつかって行こう。

岬の指が俺のシャツに食い込む。
そのまま俺の心臓もワシ掴みにされた様に
胸がギュっと激しく鼓動した。

岬にこんな事言ったことないけど
岬の事がいとおしくていとおしくて
離れているときでも
いつでも俺の心の中を占めていて
岬が側に居ないと俺自身止まっちゃいそうなんだ。

だけどどんな言葉も陳腐に聞こえて
うまく言えないから
だから岬にうまく伝えられなくて
自分自身もモドカシイホドニ
岬を近くに感じて居たいんだ。

『なあ、岬』

岬の顔がちょっと上がる。
岬だって俺と同じに感じてるのかな？
感じてるから俺の側に居るのかな？

『ずっと一緒に居て・・・』

俺たち男同士だけど
俺は純粋に岬が好きで
ただ体の入れ物が同じ型ってだけで
世間はちょっと違う目でみるかも知れないけど
俺が恋してるのはミサキタロウなんだ。
もし岬の中身が違う人間だったら
違う性格の人間だったら
岬の事好きにならなかったと思うよ。

ふとした時にに岬の事考えたら
胸がジンと温まることも
岬の体温を感じたいと思うことも
岬が近くに居ないと寂しくて
胸に大きな穴が開くことも
岬って人間を好きだからなんだ。

岬がそんな小さな事で迷うなら
岬が俺をスキって事実が
そんな小さな事で潰されてしまうなら
その後ろに隠れている
自分の心の囁きに耳を傾けて
心を開放してみてくれないか。
俺は受け止めて守っていく自信があるから。

『一生、ずっと俺の側に居てくれよ』

岬の肩が小さく震えた。

『それ・・・プロポーズみたい』

消え入りそうな岬の呟き。

『そうだよ』

だって他に言葉が探せないんだ。
俺の中に岬が溢れてきちゃって
これ以上言う言葉が分らないんだ。

『岬の事愛してる』

『だから　うん　って言って』

この瞬間に触れ合っていること
岬も感じて欲しいんだ。
二度と失わない様に。
岬が俺を想っているなら
俺にちゃんと通じているから。

『俺、岬の事愛してるんだ』

岬がそうして欲しいなら
夜が明けるまで何度でも
そのかわいい唇に囁くよ。

『うん　って言って』

岬の亜麻色の髪がかすかに揺れた。

『言ってくれよ、岬・・・』

満天の星が輝く夜に
流れ星が俺に小さな願いを運んできた。
微かな、微かな大気の動き。

『うん』

迷わずに・・・・・

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