VOICES CARRY
『いたッ・・・』

僕が目をあけると
すぐ側に翼君の顔があった。

『岬君、大丈夫?』

心配げな瞳で僕を覗き込む。

『うん』

『立てる?』

僕が無意識に伸ばした手を
翼君がそっと握った。


全日本の合宿で
僕等は同じフィールドを駆け巡る。


翼君の手が触れたとき、
安堵のため息と共に
チョッピリ懐かしくなった。









『岬君、行こ!』
翼君が僕の肩をゆり起こす。

『う・・うん』
僕も暖かかった布団を跳ねて
大きく伸びをしながら立ち上がる。
枕元に置いてた上着に手を入れた。

『寒い〜・・・』

僕の口から漏れた言葉が
白いモヤになって暗闇に消えていく。










僕等は南葛小学校サッカー部の
冬の強化合宿ってヤツに来てた。

箱根の山奥の小学校を借りて
冬季でははじめての合宿。
校長がこの小学校の校長と懇意なので、
わざわざ寒い箱根に行かされるのだ。

バスの中で神妙な顔して石崎君が話しだす。
『今から行く小学校って、
 戦時中に建てられた古い学校で
 色々怪奇現象が起きるんだってさ〜』

みんながドッと笑い出す。
『石崎はいっつもそんな事ばっか言ってるな〜』

ちょっと膨れて石崎君も反撃する。
『俺、知り合いに聞いたんだ!
 校舎の階段にある肖像画が
 夜中の12時になると笑うらしいぜ』

先生がちょっと怖い声で言う。
『じゃあ石崎、お前一人で今夜確かめて来い!』

『先生、一人なんてやだよ〜!!!』



ナンダカンダで僕等のバスは無事に到着。
降り立ってあまりの寒さに身を震わせる。

確かにそのこじんまりした学校は
古いオンボロの木造校舎で
比較的新しいのは体育館だけ。
オバケが出てもおかしくなさそうだった。

僕等が寝泊りするのは体育館で
荷物を置いてしばらくしてから
さっそく練習に取り掛かった。




『なあ、校舎の方行ってみようぜ、翼、岬』
『石崎君、さっきの話信じてるの?』

練習後、グラウンドを横切って体育館に戻る途中
石崎君が僕と翼君を引っ張る。

『だってさ、知りたいんだよ〜』
『ダメだよ、校舎には行っちゃダメって言われてるよ』
『ちょっと覗くだけ!!!』

木造の校舎にそってグルっと歩いたけど、
どこもカギが掛かってて開きそうも無い。
『もう、帰ろうよ・・・』
僕と翼君が『帰る』って言おうとした瞬間
通用門の近くの窓が
少しだけ開いてるのが目に入った。

『よし!!!』
石崎君は僕等が止める間もなく
窓に手をかけて大きく開いた。

『ダメだよ、石崎君!!!』
翼君もビックリして窓辺に近づく。
ひょい、と石崎君が窓を乗り越えて
校舎に消えてしまった。

『翼君・・』
『岬君・・』

僕等が顔を見合わせてる中に
石崎君が小声で叫ぶ。

『見つかっちゃうから早く来いよ!翼、岬!』




心臓がドキドキして止まらない。
こんないけない事するのって初めてだから。

埃っぽく薄暗い校舎の廊下をそっと
そっと三人で進んで行った。

『こわいよ・・・』
翼君がそっと僕の肩に手を置いた。
『大丈夫だよ、岬君』

僕等の足が廊下を抜けて
正面玄関に差し掛かる。
僕等の前を歩いてた石崎君が急に止まった。

『な・・何?』
こわごわ石崎君が指差した方向を見やる。

『有った・・・』
一階から二階に伸びる大きな階段の踊り場に
大きな大きな肖像画が掛かってる。

『わあ〜!!!』
思わず大きな声をあげて
僕等は今来た廊下を急いで走って戻った。







練習が終わって
ご飯もオフロも済ませた僕達は
就寝前の自由時間。

『ダメだよ、石崎君』
翼君がピシっと意見を跳ねのけた。
『いいじゃんか、翼、お前もさっき見たろ?』

『だからって12時に行くのなんて・・・』

『絶対に笑うんだって!!!』

『う〜ん・・しょうがないなぁ〜・・』

真剣な石崎君の眼差しに押されて
ついに翼君が折れた。
『岬君も、行こう?』

え゛〜!!!!
『え〜・・・っと』

『そうだよ、岬、お前も行くんだよ
 俺たち三人で秘密の冒険な!!!』




枕元に懐中電灯を忍ばして
僕等は仮の眠りにつく。

『消灯!!!』
先生がバチ!!っと電気を消して出て行った。

『ねえ、翼君、先生達はドコに寝るの?』
『さっき寝る前にバスでお話するって言ってたよ』
『もし、ばれちゃったらどうする?』
『先生達も校舎には入れないハズだから
 トイレです、とか言おうよ』

あ、本当はちょっと翼君もワクワクしてる?

『翼君、本当に絵が笑うと思う?』
『さっきは本当に絵があってビックリしたけど
 きっと嘘だよ、でも夜の冒険って
 ・・・楽しそうかな、と思って』

『僕、怖いな』
だって本当に絵がニヤリ!なんて笑ったら・・・
『大丈夫だよ』
ヒソヒソ話をしてる内にちょっと眠くなって来た。
このまま目を開けたら
朝だった・・・なんてならないかな?




『岬君、行こ!』
翼君が僕の肩をゆり起こす。

『う・・うん』
僕も暖かかった布団を跳ねて
大きく伸びをしながら立ち上がる。
枕元に置いてた上着に手を入れた。

『寒い〜・・・』

僕の口から漏れた言葉が
白いモヤになって暗闇に消えていく。

『よし!俺について来い!!!』

先頭切って石崎君が忍び足で歩き出した。

夜の11時45分。
チームメイトの安らかな寝息の中
僕達三人の影が大きく揺らめく。

外気に当たるとその寒さに震え上がる。
グラウンドに止めてあるバスに気をつけながら
校舎の裏にソロソロと回りこむ。

でも、なんだか僕もちょっとワクワクして来た。
三人の秘密の冒険・・・なんて
本当に僕の事、
仲間だと思ってくれてるんだね。
転校してきてまだそんなに間もないのに
ちゃんと仲間だって思ってくれてるんだね。

途端に心強くなった気がした。
もし絵が本当に笑ったとしても
今の僕なら怖く無い・・・かも・・・


そうっと窓を開けて廊下に降り立った。
『翼、今何分だ?』
『58分だよ』
『急げ!』

正面玄関の所まで来ると
ちょっと足が震えだした。
夕方見た情景とは全く違って
今では上に続く空間に、真っ暗な闇が
ポッカリ口を開けて僕等を待っている。

『いいい・・行くぞ・・』
懐中電灯で照らしながら踊り場までたどり着く。
古い階段が小さくギィッーと鳴いた。
僕は翼君にしがみつきながら
怖くて目をつぶってた。
恐々目を開けると石崎君が懐中電灯で
肖像画を照らしてる。
ボンヤリした小さな明かりが
そのおじさんの顔を捉える。
いかめしいその口元・・・

『あと30秒・・・』
ゴクン!と誰かがツバを飲み込んだ。
僕の手も硬く握られて
懐中電灯の明かりを見つめてた。

翼君が冷静に小さく告げる。
『5・4・・・』
石崎君の手元が震えて明かりも揺れる。
『3・2・・・』
僕の心臓が飛び跳ねる。
『1・・・0!』


あ、今・・・・・・・・・


ボーン!
同時に大きな音が鳴り響いた。
『ひゃあ!』
石崎君が思わず懐中電灯を落として
時計に負けない大きな音がした。


『誰か居るのか?』
一階の奥でドアが開く音がする。

『ヤバイ!先生だ!!!』

僕は何に驚いたのかも分らずに
翼君に手を引っ張られて2階に行った。
時計の音に紛れて手近な教室に潜り込む。

翼君と二人で教壇の下に身を隠した。
狭い空間でお互いに触れ合った肩だけか
温かみを教えてくれる。

『誰か居るのか〜???』

先生の声が響く。

時計の音がやんで、先生の足音がする。

ペタペタ・・・・・・・パタン!

後には物凄い重圧の沈黙だけ。




『岬君、大丈夫?』
僕はと言えばただただビックリして・・・

『見ちゃった』
『え?』
『僕、笑ったの見ちゃった・・・』
翼君が小さく笑った。
『俺も』
『本当?』
『うん、笑った気がした』

『すぐに明かりが逸れたから
 光の加減だと俺は思うけどさ』
嘘。
絶対笑った・・・・と思う。

『怖かった〜』
そう言った僕の手をギュッと握り締める。
『それより時計と先生に驚いた!』
『僕も・・・』

『岬君、もうちょっと隠れていよう』
『うん』

教室の窓から外の明かりがボンヤリ差し込む。

『寒いね・・・』
さっきまで興奮してたから感じなかったけど
じっとしてると外気の冷たさに気が付く。
あ、そうだ。
『翼君、僕手袋持ってるよ』
ポケットからゴソゴソ取り出す。
『翼君使っていいよ』
『俺はいいよ、岬君使いなよ』
『いいよ』
『じゃあ・・・』

僕の左手に手袋をはめてくれて
翼君の右手にもう片方をはめた。

手袋してない手を翼君の手が包む。
そのまま上着のポケットに入れてくれた。
『これなら、暖かい?』
『うん』

『僕、さっきは本当に絵が笑ったって思った』
『岬君が笑ったと思うんなら笑ったんだよ』
『僕が思ったから???』
『うん』

『多分ね、心の中で(笑うかも)って思ってたから
 そんな風に見えたんじゃないかな?』
『そうかなぁ・・・』
『だって俺、いっつも心で思ってる事って
 現実になる気がするんだもん』
『翼君が思ってる事って?』
『小さい頃からサッカーが大好きでずっと
 もっと強くなりたいな、とか大会で優勝したいな、
 とか思ってて、今ちょっとづつ現実になってるから』

翼君の顔がキラキラ輝いた。

『それは翼君が努力してるからだよ』

『ううん、努力しても心がそっちを向いてないと
 きっと現実にはならないと俺は思うんだ』

こんな暗闇の中でも
翼君の笑顔が温かく写る。

『うん』

そうだね。
僕、いっつも仲間が欲しいって思ってて
今、ちゃんとみんなが居てくれるもん。

僕がそう思わないと回りの人には伝わらない。
僕が周りの人に伝えなくちゃ
周りの人は答えをくれないもの。


『そろそろ大丈夫かな?』
僕等は冷え切った体を教壇から押し出す。

『岬君・・・雪!』

大きな教室の窓一面に
大きくてフワフワの雪が舞っていた。

外灯のオレンジに照らされて
静かに舞い降りる白い雪。

『キレイだね・・・』

僕等はそっと窓辺に寄って
暫く空からの贈り物を眺めてた。

『決めた』
翼君が突然呟く。
『何を?』

クルっと僕の方を向いて
翼君がニッコリ笑った。

『俺達、ずっと一緒にサッカーしよう。
 岬君がまた転校しちゃっても、大人になっても
 ずっとずっとコンビを組んで行こう!』

ポケットの中で僕の手を強く握る。
『俺、今日から毎日心の中でそう思うよ!』

あんまりにも優しくてちょっと涙が出そうになる。
『うん・・・』


だって心で思っていたら
きっと現実になるから・・・

今つないでるこの手の様に
ずっとずっと・・・GCで居ようね。


『僕も・・・!』





隣の教室で居眠りしてた石崎君を起こして
僕等はそっと校舎を出た。
降りしきる雪の中を掻き分けて
体育館に戻る。

『良かった・・・みんな寝てるね』

ゴソゴソ上着を脱ぐ僕の傍らで
すでに石崎君は眠りに落ちてる。

『ビックリしたけど、楽しかった』
『うん』

僕の布団で石崎君が寝ちゃったから
翼君のお布団に一緒に潜り込む。

向かい合ってオデコをくっつけた。

疲れからか直ぐに瞼が重くなる。
『翼君・・・』
『うん?』



『ありがとう』



翼君は何も言わずに僕の手を握ってくれた。



しんしんと積もる雪の音を聞きながら
僕は大人になって日本代表で戦う夢を見た。

もちろん、隣には翼君が・・・・・・







『あ〜!!コイツおねしょしてる〜!!』
うっすら目を開けると先生の周りに数人が群がる。
誰かがオネショしたらしい。

『だって・・・だって・・・』
まだ寝ぼけてる僕にその泣き声が聞こえた。
『トイレ行こうとしたら・・・
 校舎の2階の窓に人影が見えて
 怖くてトイレ 行けなかったんだよ〜!
 あれ絶対オバケだよ!!!』

思わず身を起こして翼君、石崎君と見詰め合う。
思わずおかしくなって笑っちゃった。

『僕達の・・・』
『秘密!!!』

『三人のな!!!!!!!』



ちょっと怖い冒険だったけど
僕にとっては凄くいい思い出になった。








『岬君、さっき大丈夫?』
食堂でワイワイお昼を食べてた時、
翼君が心配げに覗き込む。
『うん』

さっき起こしてくれた時、
翼君の手が触れた時、
懐かしい思い出が胸を駆け巡った。

『ねえ、翼君覚えてる?』
『何を?』
美味しそうにご飯を食べる翼君に囁いた。

『秘密の冒険』

翼君の顔がパッと輝く。
『うん!懐かしいな〜!!!』

『なんかさっき急に思い出したんだ』
『わ〜!何年前だろ???』

僕等2人の間であの日の話が始まると
みんなが興味深々で色々聞いてくる。

『なんだよ、仲間に入れろよ!!!』
修哲トリオも松山君も若林君も誰も入れない。
だって・・・

『だって俺達の』
『秘密だもんね・・・』

『三人だろ〜!!!!!』

むくれた石崎君が最後に割り込む。






午後の光に照らされて
またフィールドを走り回る。

翼君にパスを回す。
僕の欲しいところにボールが戻る。
また、パスを出す。

あの日の夜に見た夢も思い出した。
僕等2人、大人になってもコンビを組んでた。

そう・・・

僕等もちょっと大人になって
今は翼君と違う町に住んでるけど
でも、きっと変わらない。

『翼君!』
僕の足が大きくボールを蹴る。

(あの日からずっと、僕は心で思ってるからね)

『ナイス!岬君!!!』
翼君のシュートがゴールに切り込む。
そのまま僕の近くに寄って肩を叩いた。

『俺はあの日からずっと心で思ってるよ』


え・・・・・

僕の心の中、聞こえちゃった?



僕の中が温かく満ちてくる。
『僕も・・・』


うん!と翼君が大きくうなづく。
『行こう、岬君』

僕等2人にあの日の笑顔が蘇った。





心の中で思っていれば
きっときっと現実になるから。
今現実の出来事も
ずっとずっと
続いて行くと思うから。

翼君、これからも
ずっとずっと
一緒に・・・
走って行こうね。



FIN





MILK様
なんだか急いで書いてたので
後から読んだら文章めちゃくちゃ・・・
すみません!!! (土下座!)
せっかくリクエスト下さったのに
う〜ん・・・ハッピーなのかしら???

子供の頃って意味もなく冒険とかしますよね。
この小学校の話はまたもや私の体験談!
肖像画は笑わなかった上に
後からこっぴどく怒られました 笑

ちょっとでもホノボノGCになっていれば
嬉しいですvvv書いてて楽しかった♪

本当にリクありがとう御座いました!
こんなので良かったら是非是非
もらってやってくださいませ♪
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