IN YOUR POCKET

『ほら・・・』
若林君がその大きな手を差し出す。
誰も居ない夜の小道。
まだ吐く息も白い、冬の最中。
『うん・・・』
僕の手を握り締める。
『岬の手、冷たいな。』
(だって寒いんだもん・・・)
彼は優しくほほ笑んで、つないだ手をポケットに。
『これなら、あったかいだろ?』
嬉しくなって僕が見上げる。
『な?』
手より先に心が温まる。
『うん・・・』
本当は手袋しても良かったんだ、でも
きっと今日は手を繋げるから、
今日は遅くまで一緒にいられるから
手袋、わざと忘れて来たんだよ。

堂々と街中で手を繋いで歩く恋人達と違って、
僕らは人気の無い時に手を繋ぐ。
『誰も気にしないよ。』
そんな彼の言葉を無視して、
頑固に拒む僕。
『絶対お前の事、男って気付かないよ。』
益々、むっ・・・
『だってこんなに近くに居るのに・・・』
ちょっと不満そうな彼。
でも、僕はちゃんと君の恋人で居たいから。
だから人前で目立つことはしたくないんだ。

握手の様に繋いでる、
僕の右手と彼の左手。

『この間ね、大きなショッピングモールに行ったの。』
僕が不意に喋りだす。
『ん?』
『エスカレータ降りて手を離した瞬間、
 誰かと手を繋ぎたくなった・・・』
僕が彼を見上げる。
『なんか空っぽな気がしたの。
 でも、若林君は居なくて・・・
 いつの間にか、クセになってるんだね。』
ほほ笑む僕を見下ろして、彼が急に手を離す。

逞しい両腕で、
僕を優しく抱きしめる。

『俺も・・・時々耐えられない。』
その大きな抱擁に甘えて、頭をもたせ掛ける。
『お前が隣で笑ってくれないと、
 俺の中では何も進まないんだ・・・』
僕の瞼に彼の優しい顔が浮かぶ。

いたずらに吹く風が僕らの周りに渦巻いて
僕達を思考の波に押しやって行く。

『ねえ、帰ろ。』
居心地の良さに酔いしれて
僕が彼の抱擁を解く。
『ここは、寒いから。』
『ごめん。つい・・・』
照れくさそうな彼の笑顔。
『手、繋いでいい?』
僕の必死の訴え。
『繋いでいたいから・・・』

今度は握手でなくて指を絡める。

お互いの指と指が交差して
ぎゅっと握り合う。

もう一度、彼のポケットに入れてくれた。
暖かくて、安全な空間。

『なあ、岬知ってるか?』
『何?』

『指と指を絡めて繋ぐのって、
 エッチした恋人の象徴なんだって』
『え???』
そんなの、知らないよ。
『もし俺達が普通にこうやって手を繋いでたら
 ハタから見て分かるのかなあ・・・』
『もお!何処からそんな情報仕入れてくるの?』
おかしくなって僕が笑う。
釣られて彼の口元に笑みが浮かぶ。

でも、もし、もし僕や彼が
世間でも有名でなかったら
きっと
きっと堂々と手をつないじゃう!

ポケットと言う名の小さな空間。
暖かく、二人の心を満たす空間。

僕等の気持ちを閉まっておくには
ちょっとちっちゃ過ぎだね・・・。

今日は僕の手も空っぽじゃない。
胸がいっぱいになって、ぎゅっと握る。

冬の間だけの、お楽しみ。

END

                        

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