TOY'S MARCH




まあるいケーキって
幸せの証拠なんだと思ってた。

誕生日とかクリスマスとか
幸せなオウチには絶対あるんだもん。

父さんが何回か買って来てくれた
まるくって白いケーキ。

友達は周りに居なくても
僕は幸せなんだと思ってたんだ。

だって幸せの
まあるいケーキがあるから。










『んっ・・・』

小鳥のさえずりが、
明るく差し込む陽の光が、
僕を夢から誘い出した。

『アレ・・・』

寝返りを打つと、
横のシーツが冷たい。

『若林君?』



あ・・そっか・・・
若林君、練習行ったんだ。

昨日の夜、西ドイツの若林君の家に来た。
なんか久しぶりに会ったら、
また一段と逞しくなってて
僕の胸がドキドキ波打ってしまう。

ドキドキドキドキドキ

それはまるで鼓笛隊が行進するかのように
規則正しく 僕の胸を激しく打つ。






ダイニングに行くと手紙が有った。
『練習、4時には終わるから』

台所でコーヒーを淹れながら
昨日の出来事をそっと思い出す。




『岬、俺と一緒にドイツで住もう』

若林君が僕の手のひらにKISSをした。

『俺と一緒に、住もう・・・』

僕だって・・・僕だって
一緒に住みたいけど・・・

そんなの、どうしたらいいんだろ。









フライトの疲れからかな?
日常の疲れからかな?
僕はひがな一日、のんびり過ごした。
耳の奥に残る、若林君の声。

『俺と一緒に住もう』

どこへ行っても、何をしても
ご飯食べても、シャワー浴びても
トイレに行っても、寝ても覚めても
テレビ見ても、アイス食べてても

『俺と一緒に住もう』

若林君の声がついて来る。









モヤモヤしてベットにコロンと転がった。
『アレ?』

ベットの対峙、若林君の机の上に
小さなおもちゃが並んでる。

(若林君ってこんな趣味あったっけ?)

近くに寄って見てみると、
それは結構精巧なミニチュアで、
イギリスの兵隊、大きなクマ、
何匹かのキツネ、小鳥たち、
今にも動き出しそうなバレリーナ、
音が聞こえそうな鼓笛隊・・・etc.

『そうだ!!!』

僕は20個くらいのミニチュアを並べて
頭の中で動かしていく。


『鼓笛隊が最初で、次が兵隊さん』

次がクマで・・・
みんなで僕の頭の中で行進する。




ズンチャカ ズンチャカ
鼓笛隊のラッパの音が響いて、
大太鼓がリズムを刻んで、
イギリスの兵隊が勇ましく歩く。

クマにシンバル持たせよう。
時折、バァァーーンと音が鳴る。

その後ろをバレリーナがくるくる踊って
小さなウサギが後に続く。

狐の軍団は飛び跳ねて
小鳥の軍団は聖歌担当。


ズンチャカ ズンチャカ



僕の、若林君への胸の音と同じ。
考えただけでドキドキするあの胸の音。

ズンチャカ ズンチャカ

おもちゃの鼓笛隊が音を立てて行進するよ。

ズンチャカ ズンチャカ



僕の、若林君への思いを乗せて。











『岬。。カゼひくよ』

???
いつの間にか僕、寝ちゃったんだ・・・

『岬、こんなの並べて何してたんだ?』


飛び起きると机の上に
楽しそうにミニチュアが並んでいる。
さっきまで夢の中で
一緒に行進してたのに・・・


『行進・・・』
『え?』
『みんなで行進してたんだ』

いきなり若林君がプッと噴出した。
ヒドイ 僕、ちゃんと答えたのに。

僕の頭をグリグリ撫でた。

『いいよ、岬、お前面白いなあ・・・』

ちょっとムクれる僕の手を引いて
そっと立たせる。

『じゃあコイツらには
 勝手に行進しといてもらって、
 来いよ、いいもんあるぞ』

若林君に連れられて、ダイニングに入る。

『あっ!!!』


ダイニングの上に、小さな まあるいケーキ。

『コレ、どうしたの?』
驚く僕に優しく笑いかけた。

『岬、朝、寝言言ってたぞ、
 ケーキ・・ケーキって・・だから
 よっぽど食いたいんだなぁ〜って思って』

今度は僕が噴出した。

『なんだよ、違うのか?』
『ううん、違わない・・・』

僕が夢に見ていたのは
お祝い事の時に買う、
『幸せのまあるいケーキ』だよ。
でも、このケーキもきっと、絶対
幸せのまあるいケーキなんだ。

『ちっちゃいの買えばいいのに。。』
『岬に沢山食わしてやろうと思って』

照れ臭そうに笑う若林君を見上げた。
若林君、本当に僕の事好きでいてくれるんだね。
僕、若林君と一緒に居たら、
本当に・・・幸せになれると思うよ。


『ありがとう・・・』

そっと若林君に抱きついた。

『その。。一緒に住むって件も
 ちょっとは考えてくれよな・・・』

ギュッとしがみついてうなづく。
『うん』






若林君が買って来てくれた
白くてまあるい幸せのケーキ。
その横をおもちゃの鼓笛隊がグルグル回る。

ズンチャカ ズンチャカ

僕の鼓動と合わさって、
淡いリズムを刻んで行く。

『岬・・・』

鼓笛隊のラッパが一際大きく響いて
クマがシンバルを鳴らした時、

若林君が僕にKISSをした。




僕の幸せは
甘くて白い


ケーキの味・・・






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