秋に吹く木枯らしが
俺の部屋の窓を揺らす。
その度に岬が大きく目を瞬かせた


『すごい風・・・』
俺はといえば外を見やる岬の頬に
軽く唇を寄せ付けて、吸い付く肌を感じてる。
風呂上りの、甘く清々しい香りを
もっともっとかぎたくて。
岬の肌が名残惜しそうにプルンと離れて
どうしても、もう一度頬を寄せたくなる。
ギュッと岬を抱き寄せてそのかぐかわしい肌に
軽く唇を寄せ当てた。
『さっきから、くすぐったいよ・・・』
岬が軽く首を傾げて俺の方を見やる。
『だってさ・・・』
俺としては風が吹こうが槍が吹こうが
どっちだって構わなかった。
目の前の岬に触れていたかったから。
茶色の2つの宝石がまっすぐ俺を射抜く。
『・・・岬が近くにいるんだぜ』
サイドランプの淡いオレンジの中、
岬の白い肌が俺の目に眩しく写る。
俺の腕枕の小さな宇宙で
岬の頬が小さく煌く。

ほんの数週間会えないだけで、
ほんの数週間ぶりに会っただけで
俺の心が瞬時に一杯になる。
『岬が近くにいるから・・・』
そのまま抱き寄せて
ヤツの髪にKISSの雨を降らせた。
『若林くん・・ったら!』
岬が半分笑いながら
俺の体を押しのけようとする。
その手を掴んでさらに近くに寄せようと
岬を掴んだ手に力がこもる。
俺達は暫く揉みあって

始めはお互い譲らずに
最後は二人で笑い合いながら

岬が俺の上に乗った。

下から見上げた岬の頬に
長く伸びた髪が影を落とす。
頬を縁取る影の下で
岬の目が俺の視線と絡み合う。

『どうして僕がスキなの?』

はだけたパジャマの胸元で
細い鎖骨が上下した。

『岬だから』

俺の中では当たり前の答えを口にしてみる。
ミサキダカラ・・以外に考えられない。

『なんで、僕・・・なの?』

ミサキダカラ・・・ダヨ。
強くて可愛くて他人想いで
可愛くて負けず嫌いで
可愛くて優しくて可愛くて
自分に厳しくて可愛くて・・・・・

『可愛くて・・・』

俺の一言に岬の何かが揺れた。
『あのね!』

その一瞬のスキをついて
もう一度俺の腕枕で包み込む。
それ以上、岬が可愛いことを言わない様に。
それ以上の生意気さは俺の心に響きすぎる。

『岬が岬だから』
俺の腕で抱き取られて身動き出来ない岬に
畳み掛けるように言葉を吐く。

『俺って結構、究極の恋愛してるのに・・・』
俺のパジャマを握る岬の手に力がこもる。

『ただの恋愛ってさ、相手の事がスキから始まるけど
 ただそいつとヤリたいだけならそれってきっと
 オスとメス、それだけで終わっちゃうと思うんだ』
俺の喉がゴクンと唾を飲み込んで
次の言葉を吐き出させる。
『だけど恋愛ってもっと純粋で、俺が岬を好きな様に
 本当はその人の人間性が好き・・・を指すと思うんだ』

まだ岬は動かない。

『恋人同士から急に一緒に生活とか始めると
 途端に相手が嫌になったり別れたりするだろ、
 それって本質が合ってないだけだと思うんだ。
 もし本当に相手の事を好きなら一緒に居なくても
 例え離れていても、いつも相手の事を考えて
 慈しんでいられると思うんだけど・・・』

岬の吐く暖かな息が俺の胸を暖めて行く。

『もし相手が二度と会えない所にいても
 絶対に相手を信じていられるから、
 自分も相手もお互いに好きな事、
 決して変わらないと信じているから
 だから相手の事が大好きで、
 それが恋愛なんだと俺は思うんだ』

岬がゴソゴソ動いて俺の方を見上げる。
乱れた髪がなんとも言えずに岬の顔にまとわり付く。

『岬は俺の心の住人なんだけど・・・』

岬の半ば開いた唇が滑らかに動き出す。
『若林君も、ずっと僕の中に住んでるよ』

俺の手が岬の頬を包む。

『じゃあ、お互い様』
そのまま滑り降りて、岬の手を掴んだ。

『多分、ずっといつまでも俺の心の中には
 岬しか住んでないから・・・』

岬の手を握り締めながら俺は目を閉じる。
いつか、もし岬と離れなきゃならない時が来たら
こうやって目を閉じていればきっと
岬の変わらない笑顔とかはしゃいでる姿とか
きっとキラキラ思いだすに違いない。
例えその時、俺の気持ちが通じなくても
それ以上に近くに居られなくても、
自分の心の向かう方向くらいはきっと
自分で分かるに違いないと思うから。

一生に何度、自分より大切な人間に出会えるだろう?
自分より大切な友達が、一生で何人出来るだろう?

相手が男でも女でも、
お互いに自分より大切と思えるなら
それって究極の恋愛だと俺は思うよ。

ゆっくり目を開けてそこに岬の居る現実を見つめる。
俺と岬がそうだと今は信じているけど
今こうして触れ合っていられるのが究極の幸せで
あと何度こうやって触れ合ってられるかなんて
誰も絶対に分からないから・・・

俺の目の端がその動く物体を捉えた。
『岬、窓・・・』

ちらちら舞う白い雪が外灯に照らされて
細かな影を投げかける。

『どうりで・・・寒いと思った・・・』
窓を見やる視線を俺に戻して岬が軽く微笑む。

『若林君に小さなお願い、してもいい?』
岬の手が毛布を引っ張り上げて俺の肩に掛ける。

『何?』
岬が俺に望むのっていつもちっぽけな事。

『ずっと、僕と一緒に居る間は、腕枕、してね』
岬の目がまっすぐ俺を見上げる。

『うん』
暫くのち、岬がその長い睫を伏せる。

秋の木枯らしが岬を、
密かに舞う粉雪が幸せを、
俺の腕の中に運んできた。

俺の腕の中の小さな宇宙に
暖かな灯がともり、俺も目を伏せる。

明日も現実が続くように
明日もこの幸せが続くように
只そう願いながら・・・
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