《日曜日1》

いきなりのドアベルに起こされた。
『誰?とおさん???』
枕もとの時計はまだ7時半ちょっと過ぎ。
またもベルの連続音。
『誰?』
寝ぼけ眼でベッドから抜け出す。
『ミサキ、ミサキ!』
(ピエール君だ・・・)
慌ててドアを開ける。
これ以上近所迷惑にならないように。
『おはよ・・・とおしたの?』
了承も得ずにずかずか入り込んで
こちらに向きなおる。
興奮した面持ちで僕を見やる。
『お前、行きたいって言ってたよな!』
『な・・・何を・・・?』
『ホラ、コレ!』
自信満々に差し出されたその手に握られる
2枚のチケット。
なんかまだ半分頭が寝てる。
じっとチケットを見つめた。
『あ、これって・・・・』
アメリカの新鋭芸術家が主催の個展。
イベント形式なので前売りが無いと入れない。
『うそぉ・・・』
(売切れだし、高いんだよ・・・)
『昨日友達がくれたんだ。急に用事が出来て
 行けないからって。・・・マジで。』
『でも・・・』
『NON!でも、じゃないぜ。
 一回目は9時から開場だから急いで支度しろよ、岬!』
『だってそのチケット、手に入らないって・・・』
『だけど今俺は持ってるんだ、ミサキ行こうよ』
彼の瞳がキラキラ輝いてる。
なんだかおかしくなっちゃった。
子供みたいに生き生きしてて、
若林君みたい。
『本当に???』
『ホントだよ、午前中の練習はサボり!
 行こうぜ!』
その満面の笑みに突然の訪問も許す気になった。
『本当に一緒に行っていいの?』
『いいに決まってんだろ、お前が行きたいって
 言うからもらって来たのに』
ピエール君がが口を尖らす。
『あ・・・ありがと』
なんか胸がつまる。
こっちに来て随分経つけど、ピエール君が
慣れないフランス生活において僕の生活に
彩りを加えてくれる。
ふと気付いて自分を見下ろした。
パジャマ姿で、頭もボサボサ・・・
『待っててくれる?僕シャワー浴びてくる!』
そう言いつつもう身体は動いてる。
パタパタとバスルームに駆け込んだ。
(なんだか色々最近起こるなあ〜)
若林君からの電話。
今朝の突然の誘い。
嬉しいことが続いてる。


水が滴る音を背に
彼の足が岬の自室に向かう。
ベット脇に並べられた数枚の写真。
彼自身も岬の隣で笑っている。
だけど・・・
一番隅の写真に目をやる。
あいつだ・・・
その堂々とした風情。
隣の岬が小さく見える。


(週末に来るのは、こいつだ)
彼の心に沸き起こる確信。
(岬・・・)


『ピエール君、もうちょっと待っててね。』
バスルームから岬が顔を覗かせる。
まだ、シャワーの熱気に上気して晴れやかな笑顔。
『もうちょっと時間あるよ。大丈夫。』
『勝手に何でもしててね、すぐ支度するから。』
『OK・・・』

『ごめんね、お待たせ。』
『よし、いこう!!!』
二人で通りに駆け出す。
昨日まで日差しを投げかけていた太陽が
今日はちょっと曇ってる。
『雨、降るのかな?』
会場について人ごみに紛れながら僕が問う。
『大丈夫だって!』

そのイベントは楽しくて、時間の経つのが
とっても早くて、僕達は始終笑いあってた。
『感動・・・ピエール君、ありがと。』
『ああ、別にいいよ。楽しかったな。』
『うん。』
帰り道、一粒の雨が落ちた。
『あ、雨・・・』
『あ〜あ、これじゃ練習も中止かな???』
お互いに顔を合わせる。
『なあ、岬ん家で雨宿りしていい?』
『うん、いいよ。』
小雨の中を家へ駆け出す。

家に入った途端、ちょっと本降りに変った。
『なあ、岬、週末誰がくるの?』
『え?』
ピエール君が拭いたタオルを僕に放りながら問う。
『日本の、友達・・・』
『あいつだろ?』
『え???』
驚いてる僕の傍を通り過ぎて、勝手にソファに倒れ込む。
『ワカバヤシ・・・だろ?』
答えに詰まる僕。
なんでそんな事聞くの????

昨日までの幸せな時間が、どんどん過ぎていく。
その時、不意に電話が鳴った。

                        

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