『岬、HAPPY NEW YEAR!』

受話器の向こう
僕の目に映る彼の姿。
淡い照明の下で
手に何かのグラスを持って
窓辺に佇む。
体に回した手がまるで
僕を抱いているかのように
優しく優しくグラスを揺らす。

彼の周りで白く静かに
時がリズムを刻んで行って
優しく優しく彼の前髪を揺らす。

『うん』
遠く離れた空の下で
僕の声が、まるで小鳥のように
静かに静かに震えて伝わる。

『オメデトウ』

目を伏せて伝わらない僕の想いを
精一杯胸の奥で反芻しながら。

『今年もよろしくね』






岬の声が小さく俺の耳に響く。
俺の思考が岬の家に入り込んで
受話器を抱えて座り込む
アイツの隣に舞い落ちた。

パジャマの裾から覗く裸足の足元。
目を伏せて染まる頬とは対照的に
ちょっと寒そうに身を寄せて
俺のパルスを感じてる。






NEW YEARの5分前
僕の家の電話が鳴った。

本当はちょっと期待してて
本当はちょっと知ってたんだ。

『会えないから、電話するかも』

若林君の かも って
絶対するって事なんだよ。

でも本当になったから
本当に電話くれたから

僕がどんなに嬉しいかなんて
この細いケーブルじゃ伝え切れなくて
・・・・・

でも、そんなの若林君なら知ってそう。

この受話器の向こうに居るのが
若林君じゃなかったら
僕はこんなに幸せな気分になれたかな?

5分前に電話を鳴らしたのが
別の人でもこんなに胸が一杯になるのかな?



ううん





岬の口元がちょっと動く。
そのまま、言葉を飲み込んだまま。

ヤツが言いかけて躊躇った5文字を
俺の口元からそっと囁く。

『会いたいな』

岬の目がパッと開いて
居るはずも無い部屋の隅に
俺の姿を見つけて
コクンとうなづいた。

『うん、会いたい』






一緒に居れないから
一緒に居れる時間を大切にしよう。


伝えたい思いを
この密かな電波に乗せて
僕等の胸に響きあう。



いつも側に居れないから
向かい合う時間を大切にしよう。


握り締める受話器の温もりが
相手にも届くように
僕等は必死に言葉を紡ぐ。



時計の針が12時を刺した。



会えなくても、側に居なくても
伝えたいことはいつも一緒。


いつでもお互いを感じていよう。



二人で迎えた新年が
そっと新しいカーテンをめくる。



今年は良い年になりますように・・・
                 



                 
JELLY FISH
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