Precious of you





胸がドキドキする。

何度も何度も思い出して
僕は自分の手を握り締めた。


大きな、手。







同じチームだったみんなと
ひとしきり喜んでから
僕の前に立つ大きな人影に気づく。

『やったな、岬』
『うん』

若林君とハイタッチしようと
僕が右手をあげた。







『試合終了〜!!!』

高らかとなるホイッスルを聞いて
僕等の顔に笑顔が戻った。

『やった!』
『勝った〜!!!』

ソレは只の紅白試合で
全日本の練習では結構おなじみ。

ただ今日違うのは

いつも監督よろしく見てる若林君が
僕と同じチームだった事。

(なんか、すごく久しぶり)

若林君がゴールに居るってだけで
自分の背中が凄く安心する。

絶対、止めてくれるから・・・
僕は   走ろう。


残念ながら翼君とは敵になっちゃったから
一秒たりとも気が抜けなかった。。



激しい攻防戦の後、
試合終了も近くなった。

一緒にやってるからわかる。
誰もが最後に切り込むチャンスを
絶対狙ってるはず。

(絶対僕が止めてやる)

さっきまで翼君の側に張り付いていたけど
チャンスを生ませる為にちょっと離れた。

翼君も僕が何を考えてるか
きっと分ってるハズだけど・・・

翼君が出したパスを誰かが取り損ねて
僕が走りこんだ。

(コレしかない!)

翼君も僕に向かってくる。

誰か・・・
誰か居ないかな?

目の端に一瞬だけ
その姿がチラと飛び込んだ。

『小次郎!!!』

僕の出したパスが大きく弧を描いて
小次郎の足元に吸い付く。


『行けぇ!!!』


小次郎の放ったシュートが
鋭くゴールに突き刺さった。

『やったあ!!!』

おもわずみんな小次郎に駆け寄って
歓喜の声をあげる。

『岬』
小次郎が僕の頭を軽くこづく。
『うん』

心がかよい合って通じる瞬間。

だからサッカーってやめられない。



ホイッスルの後、僕らはそれぞれ
今日のチームメイトと抱き合って
ささやかな勝利に喜んだ。


『岬』


僕の前に立つ大きな人影に気づく。

『やったな、岬』
『うん』

若林君とハイタッチしようと
僕が右手をあげた。


若林君の手も僕に伸びる。

お互いの手が触れて・・・・・


直ぐに離れると思っていた僕の手を
ギュッと若林君が強く握った。

(えっ?)

ブローブを外してる若林君の手は
暖かくて柔らかくて大きくて
僕の手を全部包み込んじゃうみたいに・・・

(うそ・・・・)

顔が火照ってるのが分る。

(大きな・・・・・・手・・・)

驚いて見上げた僕と
一瞬目が合った。

その大きな手と同じ
優しげな顔で一瞬微笑む。

『・・・』

ゆっくり僕の手をおろして
若林君はくるりと歩き出す。


ホンの一瞬の出来事なのに
ずっと時間が続いてたかのように

何度も何度もその事が思い出されて
僕の頭の中で何度も何度も繰り返される。

僕の伸ばした手に
若林君の手が触れて
離れると思った瞬間
ギュッと握られて
僕の手が包みこまれて・・・


自分の手があんなに小さく感じられた。


『岬君、帰ろう』

翼君に背中を叩かれてハッと気が付く。
僕、自分の右手を胸に当てて
そのまま立ちすくんでたみたい。

『うん』

翼君と歩きながら
何度も何度も右手に目が落ちる。

(若林君と触れ合ったんだ)

閉じたり開いたりして
少しでもさっきの感触が続くように

少しでも長く思い出せる様に。


手を洗おうとしてちょっと躊躇した。
別に触れ合った事が流れちゃう訳じゃないけど
なんとなく・・なんとなく勿体無くて・・・

畳んで置いてある自分のタオルに
右手をギュッとなすりつけた。

なんか手に色がついてるみたい。
若林君色の手。
ひとしきりギュゥゥっとタオルを握ってから
手を洗ってタオルを取る。

さっき握った所をよけて
手を拭きながら考える。

(このタオル、洗いたくないな〜)

ちょっとの間だけ。


若林君に触れた思い出が
まだ現実の内だけ。




夜、眠れなくて起きだした。

自分の右手を眺めて
今日の出来事を思い出す。


(なんでギュっと握ったの?)

右手を閉じて口元につける。

(もしかして若林君も?)

僕と同じ想いだったらいいのに。



枕元に置いたタオルを寄せて
顔を埋める。

(こんな風に近くに居れたらいいのに。)


仲良く話したりとか
そんな事何度もあるけど、

手をつなぐってちょっと特別。

なんか、すごくドキドキした。




(いつか僕の想い、届くといいな。)





右手を左手で抱きしめて
僕はそっと瞼を閉じる。
顔に触れるタオルの感触が
僕に眠りを運んでくれた。


明日もいい事、ありますように。



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