目の前に広がる、一面の緑。
大きく開けた芝生の脇の大きな木の下に
持ってきた布を広げた。
『岬、そっち持って・・・』
『うん』
ビロードみたいな緑の上に
柔らかな赤が広がる。

『コレは日陰の方がいいよな』
若林君が手に持ってたバスケットを
木の影におろす。

『いい天気でよかったね』
キラキラ輝く陽光が
木の葉の影からまぶしく落ちる。
悪戯な風が優しく木々を揺らして
僕らの顔に光の雨を投げかけた。

若林君がどっさり座って
靴を脱ぎ捨てた。
僕が慌てて靴を揃えてる間に
その大きな体が大の字に横たわる。

『すっげー気持ちいい・・・』
目を閉じて、大きく息を吸い込む。
昨日会った時の疲れた顔に
精気が戻った。



『明日、公園行ってのんびりしよう』

寝る間際、若林君がそう言った。
『公園?』
『うん、春だから新鮮な空気吸おうぜ』



若林君のチームはここ最近、
なんやかや試合が目白押しで
なかなか僕達も会えない状況が続いてた。
昨日、突然電話が鳴って、
一番遅い飛行機でこっちにやってくると言う。

こんなの、初めて。
結構若林君ってマメに計画立てたりして
結構前もって教えてくれるのに・・・

でも、会った途端に直感した。
若林君の疲れた顔。
僕を見下げて弱々しく微笑む。
『岬、久しぶり』
会った途端に僕を抱きしめて
大きく息を吸い込んだ。

僕の家で軽く暖かいご飯を作る。
『はい、若林君出来たよ』
ソファに座る若林君を見やると
クッションに背を預けて、小さい寝息を立ててる。

なんだかその姿が無防備で
思わず僕に笑顔がこぼれた。
近づいて若林君の頬に手を当てる。
『若林君・・・』
体がちょっと動いて彼がうっすら目を開ける。
『あ、ごめん、俺・・・』
『大丈夫?疲れてるんだよ』
頬に当てた僕の手をギュっと握る。
『岬・・・』
次の瞬間に、僕は若林君の腕の中にいた。

『会えて嬉しい』
抱き寄せた僕の頬に、彼の息がかかる。
『こんな時、一番に岬に会いたかった』

いつになく疲れきった表情を浮かべて
ギュウと抱きしめてくる。
僕はそのままじっとして、
若林君の中の時間が流れるのを
ただそっと待っていた。

『飯、食っていい?』
しばらくして若林君が聞く。
『うん、もちろん』
二人してダイニングに座って、
彼がご飯を食べちゃうのを
肘をついてじっと見つめる。

『なんだよ』
『ううん』
ホントは絶対つかれてるのに
若林君はそんな事僕には言わない。
だから、僕もそっとしておいてあげるんだ。

若林君が着替えるのを待って、
僕らはベットに滑り込む。
なんか久しぶりに彼の腕に包まれた。
若林君に腕枕してもらって、
僕はそっと体を寄せる。

『明日、公園行ってのんびりしよう』

寝る間際、若林君がそう言った。
『公園?』
『うん、春だから新鮮な空気吸おうぜ』
『じゃあ僕、お弁当つくるね』

僕の言葉が終わらない内に
若林君は夢の世界に飛んで行った。

その、額にかかった髪を梳いて
暗闇から月明かりで若林君の寝顔が見える。
 
(いつも僕には弱音吐かないね。)
(いつも僕を優しく包んでくれるよね。)
(なんか、寝顔かわいい!)

若林君が聞いたら怒りそう。
愛おしくて、胸が熱くなる。
たまらなくなって若林君の唇にチュウをした。

(僕が癒してあげれるといいんだけど)

明日、晴れますように。




『岬、膝枕して』
急に若林君が僕に言った。
びっくり、寝てると思ってたのに・・・
『いいよ』
僕は木の幹に背中を押し付けて
大きく膝を投げ出す。
『はい、どうぞ』
嬉しそうに若林君が僕の膝に頭を乗せた。
『寝心地いい・・・』

そのままコロンと横になって
若林君は動かなくなってしまった。

白い雲がのんびり青空をよぎる。
どこまでも果てが無い澄み切った青。
悪戯な風が僕の髪を揺らしながら
木漏れ日を投げかけて通り過ぎる。

大きく息を吸う。
暖められた大地の匂い。
走りすぎる子供達の笑い声。
咲き誇る小さな花々の香り。
清々しい芽吹きの季節。

さっきより暖かくなった日差しに照らされて
読みかけの本を目で追うのが辛くなって来た。

『ねむ・・・』

天気の良さと、立ち上がる
春の緑の匂いに包まれて
いつの間にか僕の手から
本が・・・滑り落ちた・・・



『う・・ん・・・』
どの位寝てたのかな・・・
僕がうっすら目を開けると、
若林君が覗き込んだ。

『起きたか、岬』
アレ???

僕が膝枕してたハズなのに。
いつの間にか僕が若林君の膝に頭をつけてる。
『岬、よく寝てたな』
一瞬、状況が飲み込めなくて
キョトンと彼を見上げた。

その、晴れ晴れしい顔。
『僕・・・』
若林君の大きな手が僕の頭を包む。
『俺が起きたら岬寝てたから・・・』
ガバと身を起こすと、若林君の上着が
体を滑り落ちた。
『ご、ごめんなさい・・』
なんか、恥ずかしい。
昨日、若林君を癒してあげようと思ったのに。
これじゃあ・・・反対だよ!!!

『岬の安心した寝顔見てたら癒された』
若林君がニッコリ微笑む。
『なんか、俺の帰ってくる場所って気がした』

一瞬にして顔に血が上る。
そんなの、そんな事言って、
ちょっと卑怯。

『僕が労わってあげようと思ってたのに・・・』
これじゃあ、まるで逆。

『そんなスネんなよ、俺、十分労わってもらったから』
まだネボケ眼の僕を胸に抱えて彼が言う。
『なんか最近忙しくて、俺ん中のゲージが
 いっぱいいっぱいで・・・で、無性に
 岬に会いたかったんだ。だけど、会って良かった』
頭に置いた手が、優しく上下する。
『岬と一緒にいたら、なんか心が癒されて
 また、頑張ろうって気になった・・・』
僕の頭のてっぺんにキスしてくる。
『ありがとな・・・』

僕、何にもしてないのに・・・
若林君の元気になる様な事、
一言も言ってないのに・・・

『岬って俺のカンフル剤かも!』

笑って僕をぎゅうううううっと抱きしめた。
でも・・・
若林君の腕の中が心地よくて反論できない。

『お弁当、食べていい?』
急に若林君が元気一杯尋ねてくる。

『うん・・・』
僕と言えばなんか恥ずかしくて
顔も上げれなかった。

『岬・・・』
体が離れても僕の事見下ろしてるのが分かる。
俯いた顔をちょっと上げた。

『ありがと・・・』
腕をちょっと引き寄せて
僕に軽くチュウをする。

『もう!!!』
今は真昼間の公園なんだよ!!!
そう反論しようとした僕を尻目に
バスケットからサンドウイッチをあさる彼。

もう!怒るに怒れないよ!!!

『岬、すっげぇうまい!!』
若林君の顔からまぶしいばかりの笑顔がこぼれた。
昨日会った時とはうって変わって。
太陽の下、そんなまぶしい笑顔を受けて
僕の心も晴れて行く。

『いっぱいあるから食べてね』



何気ない土曜日。
僕らの時間が過ぎる。
お互いに離れて暮らしてるけど
心のどこかでお互いに求め合って
お互いに必要としてる。
普段が会えない分、会った時の感激も大きい。
僕が若林君を必要としてる様に
若林君も僕を必要としてるのかな?



春の太陽は真上に昇って
僕らを明るく照らし続けた。







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