In star request





















僕の居場所へ帰ろう。











繋いだ掌から
若林君の温もりが伝わってくる。
どんどん僕の中に流れ込んできて
君のくれる安心感が・・・





そう。
安心感なんだ。



走り続ける僕。
僕がここに立ってる意味を
君はいつも教えてくれる。



僕の居場所へ帰ろう。


君のくれた、僕の居場所へ・・・





















『正月、岬の家に居てもいいかな?』


若林君からの電話。


『うん。父さんも仕事で3日まで居ないから、いいよ』




口では平然を装うけど
本当は嬉しくて静かに高鳴る。



石崎君も井沢君も来生君も滝君も・・・
みんなは田舎に帰るって言ってた。

だったら

街の中を歩いてても
皆に知られる可能性は少ないよね。






年末の30日。
若林君が来た。






















パンパン!!!明けて1日の夕方、
2人で近くの神社に行ってお参りする。


『(僕の周りに居る人がいつも幸せでいられますように。
 若林君がドイツで成功しますように。)』


目を開けて若林君を見上げると
まだ、何か一心に祈ってる。

伏せた睫。
声にならない呟きを口の中で唱えてる。


そんな姿を見て、僕はもう一度手を合わせた。





『(僕と若林君がずっと一緒に居られますように)』





閉じていた目を開けると
若林君がにっこり笑いかけてきた。




『岬は何お願いした?』


分ってるくせに。


『教えないよッ』









境内を後にして、神社の階段を降りる時、
小さな子供が僕の脇を走り抜ける。

『あぶないから走っちゃダメよ』

お母さんがその後に続く。


立ち止まって2人の後を目で追った。
そんな僕の横を、今度は小さな子供を抱えて
優しく笑うお父さんが通り過ぎる。

『(幸せそう)』

その家族の周りに
優しい風が吹く。

こんな寒い日なのに
明るく照らされてるみたいに・・・





『岬』





呼び止められて恥ずかしくなった。
急いで若林君の後に続く。

『若林君はいつ自分のお家に帰る?』

若林君の家も近くなんだから
ちょっとくらい家に戻らないと・・・

『家?戻るつもりなんか無いぜ』

あっさりした答えに僕がビックリ。

『ダメだよ、お父さんもお母さんもみんな
 きっと会いたがってるのに』


若林君が笑って
僕の肩を優しく叩いた。


『本当は年明けから練習がすぐ始まるから
 コーチから日本に戻るなって言われてたんだ』


そのまま、僕の肩に手を置いたまま歩き続ける。


『だけど前からお前、年末に親父さん仕事って言ってただろ?』


え?と顔をあげる僕にいつもの優しい笑顔を投げる。


『岬を一人にしたくないのも有ったけど・・・
 オレが岬と一緒に居たいから帰って来ちゃったんだ』

『でも』

でも、ソレが家に戻らない理由にはならないよ。

『オレは南葛の人間だし、この土地を懐かしいとも思うし
 父や母の息子だから会いたいとも思うけど・・・』

僕は次の言葉を待ってじっと若林君の横顔を見上げる。

『その前にもう、オレは若林源三と言う一人の人間で
 何がオレに取って大事なのかは分ってるつもりだ』




『オレは自分の帰りたい所に帰るから』























『疲れてるよね、ごめんね』

転寝しちゃった若林君の肩に
軽い毛布を掛ける。

だって30日に日本に帰って来て
3日の朝には向こうへ戻るなんて・・・
休むどころか、強行手段。


額に落ちた前髪を優しく指で梳きあげる。
僕に感じさせないように言ってくれたけど
本当は・・・




若林君の優しさが胸に詰まって
思わずその場を離れた。
思い立って上着とマフラーを手に外に出る。

だって今、
これ以上若林君の側に居たら・・・



きっと涙が落ちる。

神社で会った家族みたいに
僕らの周りも 
暖かく照らされてるんだろうか?
















星を見上げた。
澄んだ冷たい空気の中で
チカチカ瞬いて
壮大なる自身の光を
僕にそっと投げかけた。










石崎君や皆は田舎に帰るって言った。
若林君は僕の所に帰るって言った。

僕の故里って何所なんだろう?
何所か恋しいところはあるのかな?
父さんとフランスに行くって決まった時は
この南葛が恋しいと思った。

もっと小さい頃は
行った町々が思い出として蘇る。

違うよ、
その土地が恋しいんじゃなくて
そこで出会った人たちが恋しいんだ。

じゃあ僕の故里って・・・




一番大きな星が
一瞬ソレと分るほど
僕の目に眩しく映る。


その星の瞬きは
僕が何所に居ても
日本に居てもフランスに居てもドイツに居ても
きっといつも僕の上で瞬いて

僕が僕であるという事を

僕の今立っているこの場所が
僕の生きている場所だって事を
優しく教えてくれている。

帰るところの無い人間は不幸だ。

僕の帰れる場所、
場所でもいい、友達でもいい、
僕が帰りたい所へ


僕は僕の心の中に故郷を持ってる。

だから



僕の居場所へ帰ろう。







僕の頭上で
星が一つ 


音も無く流れていく。









玄関のドアを開けると
心配そうな顔の若林君が立ってた。

『岬どこ行ってたんだよ』

『ちょっと・・・散歩』


僕の手を取って、
その暖かい掌に包み込む。


『こんなに冷えてる  おいで』



冷え切ってた僕を大きな身体で包み込んで
若林君の温もりが伝わってくる。
どんどん僕の中に流れ込んできて
若林君のくれる安心感が僕を暖めていく。

そう。

若林君のくれる安心感が
どんなに寒い中にいようとも
僕の心をいつも暖かくしてくれる。



僕は僕の居場所に帰ろう。



そこはいつも暖かくて
僕と言う人間が
一番僕らしく居れる場所。



帰ろう







若林君の腕の中へ



















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