『ふ〜っ・・・あっつぅ・・・』
蒸し風呂状態のバスルームから出て
岬の居るエアコンの効いたリビングに戻る。
『もう、風邪引いちゃうよ』
岬がバスローブを取って俺の方に歩み寄る。
『岬もシャワー浴びて来いよ』
バスローブを受け取って岬に告げる。
『うん』
俺の横をすり抜けて岬がバスルームに消え、
俺はエアコンの下で、冷たい空気をむさぼった。

キッチンから冷えたオレンジジュースを取って
体の中に注ぎ込む。
喉を通って隅々まで染み渡る。

汗も引いて一息ついた所に岬が現れた。
上気した頬にバスローブを引っ掛けて
そのままクーラーの下に行く。
『暑いね・・・』
目を閉じて冷気を感じる岬に近づいて
バスタオルをかけてやる。
『風邪引くから』
そのまま手を引いてソファに座らせた。
岬の濡れた頭をバスタオルで拭いてやる。
『いいよ、大丈夫』
『だーめ!俺が拭いてやるからじっとしてろ』
俺の手の下で岬が俺を見上げる。
(かわいいなあ・・・)
俺も岬の顔をみつめながらバスタオルを動かしていく。
『オレンジジュース、飲むか?』
『うん』
俺が手を止めて、まだ冷えてるジュースを手渡す。
『ありがと・・・』
受け取った岬が何か思い出したように
クスっと笑った。
『なんだよ・・・』
『ううん。なんでもないよ』
変なヤツ、と思いながら側でジュースを抱え飲む
岬の動きをじっと見守った。





『オレンジジュース、飲むか?』
そういってコンビニの袋から缶を取り出す。
『え・・・でも。いいの?』
『お前、飲みたいって言ってただろ』
『あ・・ありがとう・・』

まだ僕達がこんなに仲良くなる前の合宿で
若林君は結構チームの嫌われ者を演じてた。
飴とムチのムチ役。
合宿中、余りにあがった気温に
チーム員全員バテバテで
ロクに集中できない有様だったから
三杉君と若林君がジュース買いに行ってくれることになった。
『俺、ポカリ!』
『僕、コーラ!』
みんなが口々に叫ぶ中、僕もポロっとこぼした。
『僕、オレンジジュース飲みたい』
誰にも届かないその一言を尻目に若林君が言う。
『そんなんいちいち覚えられっか!みんな同じだぞ!』

『若林ってケチ!』
皆が口々に言う。
でもさ、コレだけの人数居たら
いちいち聞いてらんないよね。
二人が戻ってくるまで、皆で大空見上げて
木陰で休む。まだ夏までちょっと先なのに
こんなに天気がいいなんて・・・
暫くもしないで二人が帰ってきた。
みんなにスポーツ飲料を配って歩く。
若林君が最後に僕のところに来た。

『オレンジジュース、飲むか?』
そういってコンビニの袋から缶を取り出す。
『え・・・でも。いいの?』
『お前、飲みたいって言ってただろ』
『あ・・ありがとう・・』
え・・・僕の言ってたこと、覚えててくれたの?
『いいから早く飲んじまえ!』
若林君が照れ臭そうに言う。
そう言う若林君も横でスポーツ飲料飲んだ。
(もしかして、もしかして、特別?)
他の誰もみんなとおそろいなのに、
僕だけにオレンジジュースくれたみたい。
なんか胸がドキドキしてくる。
『ご馳走様』
僕が缶を手渡すと、若林君がさっと袋にしまいこむ。
『内緒だからな』
そのまま大きな背中が遠ざかる。
その後も時々、皆に内緒で
特別の便宜を色々と図ってくれた。

(もしかして、もしかして・・・)
僕の中で若林君への想いが募るたび、
若林君の優しさが蘇る。




『前もオレンジジュースくれたよね』
突然岬が俺を見やる。
『え?』
岬が笑いながら俺に問いかける。
『いつ?』
『覚えてないなら、いいよ』
そういいつつ、岬が俺の目の前でちょっと
バスローブの前を広げる。
『あついよ・・・』
意外と冷えている外気を慮って
俺の手が岬に伸びる。
『風邪引くぞ』
『だいじょう・・・ぶ・・・
 は・・・ハクシュン!』
俺の心の中になんとも言えない想いが広がった。
『ホラ見ろ、髪乾かしてやるから来い』
冷えた部屋からバスルームへ引っ張って行って
鏡の前に立たせ、俺の髪と交互に岬にドライヤーをかける。

突然岬がくるりと俺の方を向く。
『若林君って、過保護』
すねてない、薄茶色の瞳が覗き込んだ。
『前からそう、若林君って過保護』
岬の前髪にドライヤー当てながら俺が言う。
『お前、今頃気が付いた?』
『付き合う前から僕に優しくしてくれたよね?』
ああ、だからオレンジジュースって・・・
『俺さ、前から決めてたんだ』
乾いた髪を手で梳いてやってから
岬のおでこについた汗をぬぐってやった。
『岬とこんな風になったら、
 思いっきり甘やかしてやろうって』

岬の頬がほんのり赤く染まっていく。
暑いから?
絶対違う。

岬は知らないだろうな。
俺がずっとずっと昔から
岬の事が大好きなんてさ・・・

『だから岬、ずっと俺に甘えててな・・・』

俺に見つめられてるのに耐えれないのか、
岬がそっと目を閉じた。
その俯いた顔でそっと俺に呟く。
『若林君が・・・僕の事甘やかすから
 若林君の前だと調子狂っちゃうよ』




そうだよ、僕、本当は自分が皆を気遣う立場にいて
いつも周りを見てるのに・・・
若林君の前だとどうしても甘えちゃうんだ。
若林君に色々してもらったり、
一人で居るのが寂しくなったり、
隣で誰かが居ないとカラッポに感じたり。
若林君と居るようになって
初めて一人が怖くなったんだ。
一人で強がってる分、若林君を前にすると
途端に緊張がほぐれちゃうんだ・・・
こんなのって、ちょっと怖いけど
僕の周りを若林君が包んでくれてるから
だから・・・
だから・・・




『若林君、過保護』
岬が照れ臭そうに呟いた。
言葉とは裏腹に嬉しそうな声を感じ取って
その唇にkissをした。
『俺、岬だけには過保護だから』

岬の手が俺のバスローブを掴む。

その手をギュッと握りながら思う。
(このまま岬の事抱きたいって言ったら
 岬、怒るかな・・・???)


俺の邪まな考えは、
素直に感動してる岬の気持ちを思って
今夜だけはお預けにする事にした。


END
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